少年たちの終わらない夜(鷺沢萠著 小説)

2020-03-03 00:00:21 | 書評
作家鷺沢萠の初期の作品集を読む。河出文庫で読むが、単行本としては1989年9月に出版されている。1989年といえば、バブル景気の最高点、年末には日経平均38957.44円にまで到達。そして、そこから日本はあらゆる意味で急降下を続けていったわけだ。1968年生まれの著者は、この年21歳になっているのだが、『少年たちの終わらない夜』に含まれる4編の短編は、ちょうど登場人物の少年少女が18歳から20歳になる頃の生態。つまり大人になっていく頃をテーマにしている。



舞台は、東京で高校卒業後、主に都内の大学に通う勉強をしない学生群の中の日常(といっても、たいしたものではなく、パーティやクルマに乗ったり、朝まで遊んだり)がテーマだが、30年経った今、冷静に読むと、結局は社会全体がバブルだったということなのだろう。

AMAZONの書評など読むと、多くは批判的なものが多いが、嫌なら最後まで読まなければいいではないかと思うのだが、本当は好きだから読んでいるのだろうとも思える。バブルの時代でもバブルに乗れなかった人もいるし、まあ、酒を飲んでスポーツカーを運転するような小説は、現代では出版社によって破かれて、書き直しを命じられるのだろうか。

そして、生きていれば今年52歳になるはずの作家が自殺したのは2004年の春。35歳だった。生活が乱れていた(というよりも酒とマージャンにはまっていたに過ぎないらしい)とはいえ、何の予兆もなく唐突に首を括ったことは今に至るまでその真相を知るものはいないのだが、一応自称メンタリスト(資格あり)の一員であるのであえて想像すると、彼女は高校生の頃に既に作家デビューし、芥川賞の候補には4回もなっていた。4回の落選の時の受賞者を見ると、小川洋子以外は受賞後大きな活躍をしているようには思えない。

心のどこかに暗澹とした気持ちが重い鎖のように沈んでいたのではないだろうか。ある意味では川端康成に受賞懇願の手紙を書いて、かえって逆効果になった太宰治的。そして2004年1月に発表になった受賞者は19歳と20歳の女性作家だったわけだ。

彼女たちの作品「蹴りたい背中」「蛇にピアス」もまた自分たちの同時代を書いた作品なのだが、なんと異質な内面的な小説であるわけだ。ある意味でバブル崩壊の前と後ということではあるのだが、鷺沢はその時から、変貌した日本社会に対峙する気力を失っていったのではないだろうか。