ランナー(あさのあつこ著)

2020-03-10 00:00:26 | 書評
文字通り、陸上競技者の話。高校2年生の男子、加納碧李が主人公。長距離ランナーである。

この小説、評判が二分される。80点か20点(もしかしたら100点と0点?)。続編のランナー2では確かに碧李は走り出していくのだが、第一編の本著では「走れないランナー」として描かれる。1年生の大会で結果を出せず、休部中。しかし、本当は走りたいのだが、彼の走りは、自分の意の向くままいつまでも走り続けるというもの。ゴールまでの距離とか関係ないわけだ。ある意味純粋だが、競技として考えれば、スタートからゴールまでの距離だけを全力で走り切るのがセオリーだ。頭ではわかっていても体が理解できない。



そして、彼には走ることに打ち込めない家庭の事情があった。母による妹への家庭内暴力。それには母の勝手な理屈があるのだが、社会的には到底許せない行為だ。碧李は母と妹の間に入って、家庭の崩壊を食い止めていた。

しかし、秘密であった暴力も妹の風邪の治療を行った病院で医師が体の傷を見つけたことから、元陸上競技の選手だった医師は事情に気付き、碧李の心をやわらげようとするわけだ。

ということで、本書はスポーツ小説というには、あまりにスポーツ的ではないわけだ。一分一秒でも早く走るヒントを得ようと本書を読んだランナーにとっては勘違いの一冊になるはずだ。

また、家庭内暴力というのは、本当に小説向きではない。暴力や犯罪というのも、多くは何らかの理由があって始まることがあり、だからこそ小説になるのだろうが、家庭内暴力を小説に書いても、そこに読者を納得させられるようなストーリーを組み立てるのが難しい。ある意味、その底なし沼にスポーツマンを組み合わせたことにより、なんとか成立したのだろう。

ただ、家庭内暴力が解決されたのかどうか、碧李は5000mで目標のタイムに到達し、競技会に出場することができたのかどうか。この重要な2点について、作家はうっかりして、結論を本書に書くことを忘れてしまったようだ。