ユーモレスク(長野まゆみ著)

2017-06-28 00:00:22 | 書評
長野まゆみさんは、美術大学を卒業後、デパート勤務を経て商業デザイナーになり、さらに文壇に入ったというか迷い込んだというのかもしれない。

本書ユーモレスクには、デパート勤務の時の知識が沢山盛り込まれていて、それを読むだけでも面白いのだが、本質的には二組の家族とその家族となんらかのつながりのある人たちの人間関係や愛憎関係が描かれている。そして長い家族の歴史と存在すべき人の不在。

nagano


実は読み終わった時間は夜で、「すばらしい小説!」と余韻を味わいながら眠ったのだが、朝起きたときは、「そういえば・・」とか「あれはどういう意味だったのだろうか」とかどんどん不思議感が湧きあがってきた。

そういうところが耽美的作家の本領なのだろうか。なんとなくミステリー仕立てにできているものの、多くの謎は解けないまま、最後のページに投げ出されてしまう。

かすかに感じたのは、村上春樹の「ノルウェーの森」との類似性だが、具体的にどこが似ているということではなく、さらに登場人物はもっと多く、深く絡まっている。

本の装画は本人が描いているのだが、トランプのカードは12枚。キングがないし、クィーンとジャックのカードには顔が描かれていない。本作で「いなくなった人物」は主人公(デパートの女性社員)の弟と臨家の長女。ではキングは???

ところで、後に調べたのだが、著者によれば、読者の9割は女性らしいとのこと(調査方法はわからないが)。さらに、時々、講演会や朗読会を行っているそうだ。日本では、作家は新刊を出すと、書店に行ってサイン会で本を売ったり、講演会で、自分の手持ちの本を領収書なしで売ったりするのだが、米国では作家自らが朗読会をして、お気に入りの何ページかを朗読したりする。

もし日本でもそういう慣習があれば、有名な「川端康成の『雪国』の『国境』の読み方論争」など起きなかったわけだ。