高熱隧道(吉村昭著)

2017-06-05 00:00:26 | 書評
1967年に吉村昭が戦前(1936年から4年間の工期)に完成した黒部第三ダムの工事を題材にドキュメンタリー小説として書いた。奇しくも発行から50年。

黒部川のダムといえば黒四と言われる第四ダムが有名で、石原裕次郎主演の映画にもなっているが、黒四工事での死者は171名とされるが、第三ダムでは300人より多い。それも、谷底に滑落したり、雪崩で亡くなったり、岩盤が高熱を帯び、ダイナマイトの自然発火も起こっている。

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どうして、そんなところに発電所が必要かというと、中国大陸で戦争が起きそうだったこと。実際には、ダム完成の前に戦火が広がっていった。そのため、国家総動員令にしたがって、通常の日当の10倍も使って冬の工事を行ったりしている。

富山県は危険すぎる工事として、中止を求めるが、国家事業として政府からは工事続行の意思が伝えられる。

吉村昭らしく、悲劇の場面でも淡々と犠牲者のご遺体のことなど書いてあるのだが、国家権力の横暴が浮かびだすようになっている。

しかし、温泉地でもある地域でトンネルを掘ると、岩盤の温度はどんどん上がっていき、160度以上にもなっていく。

一つ気になったのは、朝鮮人工の存在。何一つ本書には書かれていないのだが、現場にはいたはずだし、犠牲者の中にも含まれている。


それほど高熱ならば、地熱発電所に最適なのだろうか。