朝井閑右衛門展-空想の饗宴

2016-12-04 00:00:26 | 美術館・博物館・工芸品
練馬図書館で行われていた朝井閑右衛門展に行った。作品の多くが画家の居住していた神奈川県の美術館に所蔵されているのに、横浜から練馬に観に行くには個人的な理由があったのだが、いずれにしても一堂に並べることにより、一枚一枚の価値がさらに高まり、観る側も新しい何かの発見につながっていくものだ。

第二次大戦をはさみ、彼の作風は大きく別人のように変わるのだが、戦争前の彼は、本展のサブタイトルにもあるように、心の中の空想をキャンバスに表現するような自由奔放さがある。ちょうど江戸時代の前半の奇想画家たちとリンクしてしまう。

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代表作である「丘の上」。

大作であり、新橋に今でも威容を誇る第一ホテルのロビーにあったものが進駐軍にホテルが徴用され、運よく画家に戻ってきたのだが、大き過ぎて保管に苦労したようだ。神奈川近代美術館が所蔵していて、本展の目玉になっているのだが、おそろしいことに絵画の表面にひび割れが無数に入っている。剥離しないうちに修復作業をした方がいいと思う。戦争前の物資の乏しい時期に、良質なテレピン油が手に入りにくかったためだ。

そして、戦争画を少し描いたあと、街中の電線を描き始めるのだ。電線は醜いので地中に埋めようという方向にあるのだが、中には逆に思う人もいるわけだ。(その心は本人にしかわからない。醜いから描こうとしたのかもしれないし。)

水墨画も一流で、多くの作品が展示されている。

特筆すべきかどうかは微妙だが、彼は躁鬱病に苦しんでいたのだが、通常の病態だと、躁状態の時に大量に仕事をして、鬱状態の時は無気力に落ち込むのだが、彼は、鬱状態の時に絵を描いたそうだ。ちょっと考えにくい。

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仕事場を鎌倉に求めたため、文士(小説家)との付き合いが多く、有名作家の肖像画を多く描いているが、空想画でもなく電線画でもない。似顔絵師に徹して描いている。意外にも多才だったのだろう。

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ところで、練馬美術館だが都内の駅前地なので大庭園を構える事情にはないのだろう。好演の広場には、キリンさんやゾウさんのアートがある。ただし遊んでいるのは子供ばかりだからね。