愛の生活(金井美恵子著)

2014-03-06 00:00:12 | 書評
現在67歳となる金井美恵子氏の19歳の時のデヴュー作である『愛の生活』。短編集に含まれる三作の初出は、

愛の生活:1967年8月 展望
エオンタ:1968年7月 展望
自然の子供:1968年8月 新潮(「海の果実」改題)

ainoseikatsu


いずれも、若き作家(だった)金井美恵子氏がキラキラと輝きながら日本文学界に登場するにふさわしい、新感覚の小説だ。しかも実験的で、しかも挑戦的である。

書き出しも、
愛の生活;一日のはじまりがはじまる。昨日がどこで終わったのか、わたしにははっきりとした記憶がすでにない。

エオンタ;もの凄い暑さが夜まで続いて、ベッドのマットレスの奥まで、汗がしみ込んでいそうなくらい、寝苦しい八月の夜の十二時すぎ、Aは眠れずに、体をじっとさせたままベッドに横たわっていた。

自然のこども;海岸に溺死体があるわ、海の色に染められて水を吸い込んでふくれあがった水色の死体が、たくさん、たくさん・・・・・・。少女はでたらめな節をつけて歌いながらホテルの前庭のコンクリートの白い道をスキップする。

Wikipediaによれば、現在51歳の作家、小川洋子氏は18歳の時に、『愛の生活』を読み、こういう小説が書きたいと思って小説家の道を選んだそうだ。作風はかなり異なっていると思う。

この『愛の生活』だが第三回太宰治賞の候補作(第二位)だった。応募したのは、金井氏が信奉していた石川淳氏が選考委員だったからだそうだ。その時の受賞作は一色次郎氏の『青幻記』。当時51歳。妻子を捨てた男が故郷である小島に戻り、行方不明だった母親の遺骨にめぐりあうような筋だそうだ。まったく異なる二作から選ぶという次第だったようだ。

太宰治賞は第一回は該当者なし。第二回は吉村昭氏『星への旅』という大作が受賞している。金井氏はその後、徐々に文章の難解性を求めてゆき、追随する読者を振り切ろうとしているのではないかと思いたくもなる。

そして、現在の太宰賞の選考委員だが、驚くことに小川洋子氏が務めているわけだ。何の因果だろうか。偶然か、必然か。

ところで、小川洋子氏が18歳で『愛の生活』に出会ったように私も同じぐらいの年齢で、この小説に行きあたっていた。しかも石川淳氏の作品も全集で読んでいる。


そして、今、これを書いているわけだ。