ある王国の後継者探し

2009-03-11 00:00:44 | 市民A
ある王国の後継者選びの話題と言えば、ノースコリアと思い浮かぶだろうが、別の国のこと。

サウディ・アラビア

まず、今月の初めのあるニュースから。

禁止令無視し車を運転した女性を逮捕、サウジアラビア(CNN)

サウジアラビア南東部にあるメッカの警察が3月4日、車を運転していた女性を逮捕した。英語紙アラブ・ニューズが伝えた。サウジアラビアでは地方の一部を除いて、女性が車を運転することは禁止されている。

警察によると女性は20代。国籍や氏名などの詳細は明らかになっていない。

車を運転中に警官に気付き、警官から逃げようとした途中で衝突事故を起こしたという。衝突した相手の車は大破した。

サウジアラビアでは女性の自動車運転が禁止されており、女性差別だとの批判を受けている。昨年は女性の運転禁止解除を求め、女性125人以上の署名を集めた嘆願書がナエフ・ビン・アブドル・アジズ内相に提出された。


まず、この国の女性には、ほとんど人権がない。途方もない話はいくつもあるのだが、さらに言えば、男性に対しても、人権がある、ともいえないわけだ。まして、海外から移住者など言うまでもない。議会もないわけだ。法律は、勅令という形になる。議論無用だ。憲法はない。コーランである。国王が自ら決めた大臣(その多くがサウジ家)や知事(全部サウジ家)を通して統治している。

日本の明治時代のようなものだ。

なぜ、そういう国をアメリカはじめ欧米諸国が大事にするかというと、いうまでもない理由である。他人の国の民主主義よりも自分の国の利益の方が重要だからだ。

もっと、玄人的にいうと、「微妙な国」だからだ。資源問題だけではなく、もっともコーランに近い国だからだ。ブッシュ2が「悪の枢軸」と呼んだイランや以前のイラクよりも、独裁政権である。独裁政権が米国の方を向いているだけだから、別の方を向いたら大変なことになる。

とはいえ、サウジにとって、米国は金蔓である。地理的には日本や欧州の方が原油買付け量は多いだろうが、世界は共通マーケットであり、米国内のガソリン需要量とサウジの原油生産量は、ほぼ同量(日量1,000万バレル)である。これから世界がエネルギーのエコ化を進めた場合、あきらかに最大の糊しろがあるのが、この米国内のガソリン需要である。

元石油相ヤマニは、かつて、「米国のガソリンが燃料転換された時、サウジは再び砂漠に戻るだろう」と予言している。

問題は、その時、誰がサウジ家を守るのか、あるいは守らないのか。


サウジの中で起きている重大な事項がある。スルタン皇太子の病状悪化である。普通の国であれば皇太子というのは現国王の息子であるが、スルタン皇太子は78歳。アブドゥーラ国王(85歳)の弟である。といってもどこかの国のように男児がいないから弟、というようなことではない。

サウジ家がアラビア半島に点在する部族を武力制圧して統一サウジ・アラビア王国を建国したのが1932年のことである。初代国王はアブドゥルアジズ(1880-1953)である。彼は、リヤドを拠点として、半島各地の部族を配下に治めて行ったのだが、そのつど部族の女性を妻に加えていった。つごう26人の妻で、こどもは男が36人、女が27人で計63人。(徳川家斉は妻妾16人でこどもは53人)

このこどもたちを総称して『第二世代』というそうである。そして、そのこども(つまり孫)が『第三世代』、さらに『第四世代』『第五世代』『第六世代』が生まれたそうだ。第三世代が現在504人、第四世代が716人だが、これらはすべて進行形である。各10人程度こどもを作るのだから皇室の食い扶持も果てしなく増加する計算だ。

そして、1953年に初代国王が亡くなった後を継いだのが第二世代の次男サウド、1964年からは三男ファイサル、1975年からは五男ハリド、1982年からはファハド、そして2005年に第六代国王についたのは十男のアブドゥーラである。すべて初代国王のこども、つまり第二世代である。そして次期国王予定者である皇太子が、十五男スルタンであるのだが、この皇太子が重病とのことである。

もちろん、初代国王が67歳の時に最後のこどもが生まれたわけで、弟方式でもあと15年くらいはやりくりできるのだろうが、問題は『第三世代』である。この中でも、親が国王を経験した家系は、それぞれ政治的パワーを築いていて、主要大臣の席を確保している。王室内での発言力も強い。

さらに、議会とか世論とかいうものが存在しない国なので、代々の国王が右寄りなのか左寄りなのか(何が右で、何が左なのかは別にして)あるいは重点を置くのが、宗教なのか経済なのかによって相当針路が違っていたわけだ。そして、王室内のパワーバランスによっても、やや矛盾に満ちた舵取りを続けてきたわけだ。


現在、目立った動きとしては、1月末に政府内部で大幅な人事異動が行われたようで、一つは、スンニ派の影響力の抑制。そして、改革派(という意味は、前述の女性ドライバーを大目にみようというような考え方)を登用したこと、と言われている。教育副相には女性が起用される。

これが、単に改革派のスルタン皇太子の政治的影響力の減退を補うためのものなのか、オバマシフトなのか、あるいは王室内のパワーバランスの結果なのかは、外部からは、はかり知れない。

あの国が、今後20年で、どういうことになっていくのか、それが、世界にどういう影響を与えるのか。国際政治のバランスの中で、均衡点を見つけることができるのだろうか。