地中美術館へ。直島大混雑。

2009-03-01 00:00:42 | 美術館・博物館・工芸品
naosima行きにくい美術館の一つとして、『イサム・ノグチ庭園美術館』を紹介したが、関東からは、なかなか行けないところにあるのが、2004年に開館した『地中美術館』。場所は、瀬戸内の小島である直島である。本土から橋は架かっていない。もちろん飛行場もない。北部はMマテリアルという精錬所のある島。この直島の南部が、「アート」になっている。仕掛けはべネッセコーポレーション。絵本の会社が小中学生用の添削通信教育を始めて大当たりした資金で(公立学校荒廃の結果?)、世界に例のない地中美術館を作った(原因と結果を直結しすぎかな?)。

交通手段は、船である。岡山県の宇野と香川県の高松の間でフェリーが往復している。どちらからも1時間はかからないが、宇野は岡山から電車で1時間はかかる。東京からは、妙に行きにくい。さらに、直島はアートの島であり、地中美術館以外にもベネッセが仕組んだアートのみどころがたくさんある。ベネッセハウスというホテルもある。そこにも美術館はあるし、屋外にも彫刻があちこちに点在する。

naosimaしかも、フェリーが入る波止場は島の西海岸の中央で、地中美術館は島のほぼ南端。島の唯一の公共交通機関である公営バスは、海岸線を南に進めばいいのだが、そこは絶壁のため、いったん東海岸に向かって逆走。それから南下するため、思いのほか時間がかかる。途中は高低差の激しい道が続き、1時間に1本のバスを途中下車して屋外彫刻鑑賞ウォークをしようという気力は、すぐに消えうせる。

さらに、休日のバスは超満員。地元のおばあさんもバスに乗り込んでくる。シルバーシートを譲ろうとする人もいるが、身動きできないのでどうにもならない。

「今回は、地中美術館だけにしよう。」(次にいつ行くのか、わからないが)

naosimaしかも、私が直島に渡った日には、早朝に高松城址を探索し、午前中に屋島近くの山裾にイサム・ノグチ美術館を訪ね、再び、高松に戻り、うどん屋を捜索し、万歩計の歩数は既に2万歩を超え、既に午後2時半。きょうのうちに新幹線で横浜の自宅へ戻らなければならないという状況だった。

そしてバスの終点が、地中美術館であるのだが、単に地上にあるお土産物屋みたいだなあ、と思ったら、『チケットセンター』だった。チケットを購入するのも大変で、別室に15人ぐらいずつの入館客を集め、美術館の説明が行われる。もっとも、説明は形而上学的な内容で、始めての客にはイメージするのが難しいことが多い。建物自体が美術であるから、壁とか触れたらいけません。靴を脱いでもらう場所が何ヶ所かあります。写真もダメです。カメラ他の荷物は、すべてこのチケットセンターのロッカーに入れてください。とのことである。

そして、チケットセンターからさらに坂道を登っていくと、ついに地中美術館のゲートに到着する。しかし、決められた場所を歩いているだけでは、建物の全貌はわからない。なにしろ、建物は地上にあるのではなく、地下に向かって伸びているからだ。設計者は「安藤忠雄」。ここにもいた。地下に向かった建物は、1階(普通は地下1階)、2階、3階となっているが、パティオ状の吹き通しが地上の光を三角形の地下建物の底辺まで照らしている。中庭を囲んだ三角形の通路は階段になっていて、「表参道ヒルズ」と同じだ。

そして、実は、展示物はきわめて少ない。その少ない展示物が、偉大な力をもって人々を地底で威圧しているのが、この美術館の芸術性だ、と考えればいいのだろう。

naosimaまず、「モネの部屋」。印象派の大画家、「モネの睡蓮」をもってしても、この美術館の前座というべきかもしれない。もっとも普通の入館者は、まず、この部屋に靴を脱いで入るところから始まるので、白くぼやっとあいまいな印象を与える壁面に、無造作に展示された横長の睡蓮に、「日常感覚」を狂わされるだろう。制作年月がわからなかったが、晩年、視力が不自由になった頃、こういう夢幻的な睡蓮を描いていたような気がする。

naosimaそして、モネと同じ階にあるのが、ジェームズ・タレルの「オープン・スカイの部屋」本館の最大の不思議体験スポットである。一見は壁に大型ディスプレーが掛けられていて、単に青い光を発しているように見える。ブルーの光の前には黒い石の階段が数段あるのだが、「靴を脱いで階段を上るよう」に館員に促される。そして、階段を上がりきったところにあるブルーのディスプレーは、実はそこから奥に広がるブルーの光が世界を支配する不思議スペースにつながるのである。

そこは、僅かに前下がりの平面だが、青い光が全身を包むのである。ふわふわした遊離感覚が湧きあがってくる。大変に快感を覚え、いわゆる「天国って、こういう場所なのかな」と思うのであるが、なぜか場所は地中だし、床は前下がりなのであるから、地獄なのかもしれない。この空間に入ることだけで、高い入場料の元はすぐにとれるというものだ。

naosimaそして、本館の最下層には「ウォルター・デ・マリアの部屋」がある。部屋の中央に直径2メートルほどの黒い大理石の球体がある。カーバ宮殿を思い起こさせる霊的空間である。これも十分に驚かせてもらえるスペースである。

こうして、直島の魅力の10分の1程度しか味わえなかったけれど、再び「オープン・スカイの部屋」を訪れることを予感しながら、本州行きのフェリーに乗船したのだ。

が、この直島プロジェクトが、今のところ成功していることに影響されたのか、新たな離島プロジェクトが動いているようだ。

「犬島プロジェクト」。

犬島への足は、さらに不便である。