倉敷藤花と八犬伝の関係

2008-12-06 00:00:26 | しょうぎ
まず、本日のエントリの内容は、「歴史的真実」かどうか、まったくはっきりしていないので、単に、「可能性」という程度に考えていただければ。

倉敷藤花戦は、3番勝負を2連勝した里見香奈女流二段が優勝。初のタイトルを獲得。16歳の初タイトルは、男女問わず棋士の羨望だろうが、本人はもっと前に取れると思っていたらしい。強気の棋風で「出雲のイナズマ」と呼ばれているのは、島根県の出雲市に在住しているからで、対局のつど上京しているそうだ。

d9b8735b.jpg獲得したピンクのガラス製のトロフィーは重そうで、自宅まで持ち帰るのが大変そうだが、普段は倉敷の大山康晴記念館の一階和室の床の間に無造作におかれている。

先日病気で亡くなった愛棋家の知人M氏は、彼女のファンだったが、「若い女性が好き」「強い棋士が好き」というよくある二つの要素の合成心理だったように思う。その二つの要素は、ごく一般的であるから、同様なファンも多いと思う。


ところで、以前から僅かに気になっていたことがあったのは、彼女の名前。里見という「姓」である。

里見といえば里見八犬伝ということになるのだが、そんな短絡的な連想ではないわけだ。

実は、全国各地の「お城」というのを、色々と調べていて、千葉県の南端、館山にある「館山城」について調べていたわけだ。ここでは丘の上の公園に天守閣が建っているのだが、これがまったくの「模擬天守閣」。実在の本物の姿がわからないからといって、犬山城の模倣で復元した。犬山城天主閣は、天正時代の作で現存12天守閣のうち最古とされ、国宝。ごく最近まで、大名だった成瀬氏の個人所有だった。

おそらくは、なんらかの意匠料の支払いがあったのではないかと想像できるが、そこまでこだわったのは、おそらく犬山城の「犬」の文字だったのだろう。つまり館山城は、八犬伝のモデルとなった里見氏の居城だった。

もともとの里見氏は、源義家の孫の代に、「足利」「新田」の両家が源氏から分家。この新田家から早い段階で群馬県の里見郷に分かれた里見太郎に起源を持つ。鎌倉時代末期から室町初期にかけて足利×新田抗争の末、千葉県南部に追いやられ、じっと潜むわけだ。その後、戦国時代には、お家騒動の末、里見家は強大化。小田原の北条氏と張り合う(といっても安房・上総の領地防戦に努めていたようだ)。

そして、秀吉の小田原攻めという好機に便乗できず、逆に遅参者のラベルを貼られ、処断されそうになったところを家康にかばわれ救われる。このため、関ヶ原、大坂の陣では徳川側につき、領地安堵のはずだった。

が、家康晩年に起きた、大久保長安事件に巻き込まれる。土井、酒井といった実務派による幕府内クーデターで、武断派の大久保一門とその支持者が処罰を受ける。大久保派には伊達藩、池田藩らの巨藩もあったものの、「大きすぎてつぶせない」というメガバンクのような話で、小藩である里見藩が見せしめのために処罰を受け、安房から倉吉(鳥取)へ改易になる。実際は、当主里見忠義および家族と僅かな側近武士だけが同行したようだ。

そして、忠義は29歳で死去。跡継ぎがいない、ということになり、里見家は倉吉で断絶。残された臣下8名は、行く当てもなく、当地で自刃することになり、八賢士の墓を残すことになる。もちろん八犬伝はこの八賢士からイメージを借用したのだろう。

そして、今度は鳥取県倉吉市の話。どうも里見忠義には側室がいたそうなのだ。何人かの男児が生まれ、他家の養子などになったそうだ。普通考えれば、側室ではなく正室であったのだろう。子孫を残すために、藩主自身が八犬伝方式をとったのだろうか。

そして、倉吉と出雲は隣県であり、距離は約100キロ。出雲大社という幕府のアンタッチャブルな聖域だったことを考えれば、里見家の末裔が出雲に流れた可能性は僅かにあるのではないだろうか。


ところで、馬琴の「南総里見八犬伝」では、殿様の娘は、飼い犬に命を救われたお礼に寝室に犬を引き入れてしまい、その後、懐妊してしまうのだが、新チャンピオンは、そういうことが起こらないように注意したほうがいいだろう。もっとも、現在、「犬」の字のつくプロ棋士はいない。


再度繰り返すと、本日のエントリの内容は、「歴史的真実」かどうか、まったくはっきりしていないので、単に、「可能性」という程度に考えていただければ。


d9b8735b.jpg11月22日出題作の解答。

▲1四角成 △同と ▲同馬 △同玉 ▲1五歩 △同玉 ▲1三飛成 △1四金 ▲同龍 △同玉 ▲2四金 △1五玉 ▲2五金 △1六玉 ▲2六金 △1七玉 ▲2七金 △1八玉 ▲2八金引 △1九玉 ▲2九金引まで21手詰。

初手1四馬では逃亡される。

1三飛成に金の限定合になるところから、問題が成立した。

知人M氏の葬儀の夜に思いついた作。詰め上がりが墓銘碑である。安らかに。

ただ、途中から無理やり玉を墓穴に追い落としたというような気配もある。

動く将棋盤は、こちら

d9b8735b.jpg今週の出題も、どちらかと言えばヴィジュアル系かな。あまり見慣れぬ筋を使うと、保守的なツメキストには受けが悪いのだが、どうせならと、そういう作を中心にここにアップしている。易しそうで、本当は易しいのだが。(変な表現だ)

いつものように、わかった、と思われた方は、コメント欄に最終手と手数と酷評をいただければ、正誤判断。