箱崎ジャンクション・藤沢周

2008-06-13 00:00:26 | 書評
藤沢周の小説、これで二冊目である。最初に読んだのは「サイゴン・ピックアップ」。鎌倉の禅寺に潜り込んだ、なまくら坊主の虚と無と、現実がまぜあわされた、軽快な語りの実存小説。なかなかの傑作。そして二冊目に手にしたのが、この「箱崎ジャンクション」。ところが、これが重い。



箱崎ジャンクションというのは、東京でクルマを運転するすべての人が知っている首都高速の大冥界である。本来、首都高の基本構造は環状線で、八方に東名、中央道、関越と高速道路と拡がっていくのに、なぜか東北道と常磐道と京葉道路方面は、一旦、箱崎ジャンクション一箇所に絞り込んだ後、三方向に分かれていく。もちろん、東京の外から中に入るためには、また箱崎に一旦集合になる。不合理の上に不合理を重ねたような設計なのだが、東京五輪の前に描かれたその設計図の真意は、今や、誰も理解できない。推測すら困難だ。

で、物語は、その大渋滞する箱崎ジャンクションにわざわざ入り込んで、神経科の錠剤を毎日飲んでいるタクシードライバーが主人公。薬物(精神安定剤)に頼り、妻とは離婚協議中。生活はでたらめで、一歩一歩、破滅への道を歩んでいる。そこに、同病の別会社のタクシードライバーがあらわれ、ひょんなことから、日中、タクシーを交換することになる。要はともに私用があって、自分の車を使いたくないわけだ。

そして、物語は、その線で徐々に展開していくのだが、読んでいて、なかなか前に進まない。全編を通して流れる重苦しい基調が読者を疲れさせる。ある意味、これは作家の技術でもあるのだが、早く、読み終わりにしたいのに、読み進めない。よく言えば、都会版「枯木灘(中上健次)」だろうか。

小説のエンディングは、きっちりと読者の想定内に収まる。うまくリアリスティックに書かれているのは間違いない。

しかし、これだけの技術があるなら、もっと題材を、戦争とか体制移行国家とか、もっとシリアスなテーマにしてもいいのではないだろうか。少なくても、タクシードライバーが「箱崎ジャンクション」を読んだら、気が滅入ると思う。

もう一冊は、藤沢周を読んでみようかな。