「The Hankyoreh」 2022-12-23 08:21
■[ファクトチェック]たたけば支持率上昇?…尹政権の主張する「労組会計問題」を検証
労組会計の不透明性をめぐる3大争点
【写真】尹錫悦大統領が21日、青瓦台迎賓館で行われた第12回非常経済民生会議兼第1回国民経済諮問会議で発言している。尹大統領はこの日の会議で、公職腐敗と企業腐敗に続き労組腐敗を「清算すべき3大腐敗」だと述べた/聯合ニュース
ハン・ドクス首相、与党「国民の力」、一部の保守メディアが一丸となって提起している労働組合の会計の不透明性問題は、いわゆる「労働改革」の局面において政府が主導権を握るための議題設定だというのが労働界と専門家たちの見解だ。一部の単位労組の会計が不透明な例としてあげられているに過ぎず、労組全般の会計不正が明らかになってもいない中、政府が唐突に問題を提起しているからだ。これまでに浮き彫りになっている主な争点を検証してみる。
民主労総が巨額の資金をもてあそんでいる?
一部メディアは、民主労総の本部と、加盟している16の産別労組の予算をひっくるめて、民主労総が莫大な予算をもてあそんでいるかのように主張している。これは単一労組である16の産別労組と、それらの労組が緩いかたちで加盟する民主労総の関係を理解していないか、歪曲するものだ。労組の会計は各産業別労組と総連盟で別になっている。
民主労総の年間予算は200億ウォン(約20億6000万円)ほど。全額が組合員の加盟費でまかなわれる。民主労総は人件費や維持費などの名目で107億ウォン(約11億円)、地域本部などへの交付金として47億ウォン(約4億8400万円)、争議事業費として10億ウォン(約1億300万円)、政策事業費として2億6000万ウォン(約2680万円)を支出する。民主労総のハン・サンジン広報担当は「民主労総は会計に関する監査役の選任や監査期間および報告などの規定に則り、年2回集中監査を行い、すべての予算と決算の資料は代議員大会に報告して審議・議決する」、「組合員は加盟している労組と代議員を通じていつでも会計資料を閲覧し、受け取ることができる」と語った。
民主労総があたかも産別労組に全面的な支配権を行使しているかのような見方も、偏見に過ぎない。民主労総に加盟した労組は2000年代初めに相次いで産別労組に切り替わった。その後、各産別労組が行為の主体となって動くようになったため、かなり前から「総連盟はカカシなのか」という問題が起きている。ただし、労働界の一部からは、政府が触発した実体のない問題は置くとしても、これを機に規模の大きな産別組織や総連盟は会計士を監査役に選任するなど、会計の透明性を高める先制措置を取った方が長期的には良いという話も出ている。
補助金の透明性は国と自治体が取り組むべき問題
労組会計の透明性問題の核心は、中央政府や地方自治体が労組に支給する補助金や各種の労働教育関連の委託事業費の執行の問題だ。しかし、これさえも問題の実体は明確ではない。民主労総本部は、現在入居しているソウル貞洞(チョンドン)の京郷新聞社に支払う30億ウォン(約3億900万円)あまりの保証金が雇用労働部を通じて国庫から補助されていることを除けば、補助金は受け取っていない。ただし一部の産別労組と地域本部は、雇用労働部と地方自治体から補助金の支給を受けていることが知られる。
韓国労総の年間予算は、今年を例にとると138億ウォン(約14億2000万円)ほど。組合員が支払う加盟費が66億7000万ウォン(約6億8700万円)あまりで半分を占める。残りは国庫補助金26億3000万ウォン(約2億7100万円)、ソウル市と公共機関から補助される47億ウォン(約4億8400万円)あまりが財源だ。韓国労総は「補助金の執行は補助金管理に関する法律に則って精算検証しており、外部の2つの会計法人の会計監査を経て、政府に詳細な内訳を報告する」と述べている。
労働部は、政府と与党が突如として提起した労組会計の不透明性問題に当惑している雰囲気だ。労働部は資料を発表し、その中で「個別支援事業の関連規定に則り、徹底した決算手続きなどを経て、執行の適切性などを判断している」と述べた。労働部の高官はこの日の本紙の電話取材に対し、「我々も、労組会計の透明性問題がふくらんだ経緯については詳細に把握中」だとし、「労組の組合費に関してどのような問題があるのかは我々が把握してみて、法律に合わないことは改善する計画」だと語った。
◆国がなぜ組合費をのぞき見るのか
補助金や委託事業などを除くと、労組の残りの一般会計はすべて組合費で充当される。その組合費がきちんと使われたかは、外部の人間ではなく組合員が問題提起すべきことだ。にもかかわらず国民の力のハ・テギョン議員は前日、組合費の使途の詳細な内訳を労働庁に報告することを大企業と公共機関の労組に義務付ける「労働組合および労働関係調整法」改正案を提出した。国際労働機関(ILO)は、外部の財源が投入されていない労働組合の会計について、国などが過度に介入することは労組の自主権を害する危険性があると判断している。
そのため労働界は、政府と与党が連日にわたって実体すら曖昧な労組会計の不透明性問題に言及しつつ貴族労組、闇会計などとレッテルを貼っているのには、隠れた意図があると疑っている。来年から本格化する労働改編を前に、労組を委縮させようとの意図が隠れているというわけだ。梨花女子大学のイ・ジュヒ教授(社会学)は「組合費の使途の内訳についての発言権は組合員にあるもので、政府がそれに介入するというのは労組自治主義に反する」とし、「政府は労組をたたけば支持率が上がると考えているのではないかと疑われる」と語った。
チョン・ジョンフィ記者 (お問い合わせ japan@hani.co.kr )
https://www.hani.co.kr/arti/society/labor/1072657.html
韓国語原文入力:2022-12-22 08:00
「The Hankyoreh」 2022-12-12 07:07
■労組を力でねじ伏せる韓国政府…貨物連帯が終わりではない
労働時間の柔軟化、賃金制度の改編など
「労働改悪」の強攻ドライブ
【写真】貨物連帯がストライキを終了し現場復帰を決めた9日、京畿道儀旺市内陸コンテナ基地(ICD)である組合員が涙を拭いている/聯合ニュース
圧倒的優位に立った政府の力を確認した時間だった。安全運賃制の拡大を掲げて9日まで16日間行われた民主労総全国公共運輸労組貨物連帯本部(貨物連帯)のストライキ期間中、韓国政府は対話と妥協を通じた対立の調整と仲裁ではなく、行政命令と司法処理という鞭ばかりを振りかざしていた。新年から政府が労働時間の柔軟化と成果中心の賃金体系改編など、いわゆる「労働改革」を本格的に進める中、専門家たちは今後の政労関係にも政府の命令と形式的な法治が交渉を凍りつかせてしまう寒い冬が訪れると予想した。
雇用労働部の依頼を受けた未来労働市場研究会が12日、労働時間規制を柔軟化し賃金体系を成果と職務中心に変える内容の勧告案を発表することを皮切りに、政府は労働改革に拍車をかけるものとみられる。同研究会はここ4カ月間にわたり勤労時間と賃金体系の改編案について集中的に議論しており、具体的な制度改善案と政策提言を労働部に勧告する方針だ。労働部は現在、週12時間となっている延長労働限度の管理単位を月などに変える案を進めているが、この場合、現行最大週52時間である労働時間が増えることになり、労働界の反発が予想される。賃金体系改編の場合、尹大統領が大統領候補時期に「部署・職務別同意により賃金体系の変更ができるようにする」と公約したが、これもやはり労働関係法上の労働者代表制度を揺さぶる敏感な事案だ。政府は未来労働市場研究会の勧告案をもとに、国会立法と政府指針の変更、経済社会労働委員会の社会的対話などをすみやかに進めていく見通しだ。これと共に、政府が現在進めている公共部門の人員削減と民営化関連イシューも新年から労働現場に大きな対立を招きかねない要素だ。
尹錫悦(ユン・ソクヨル)政権は今回の貨物連帯2次ストライキ事態で見せた企業優先、労組嫌悪と民主労総排除の基調に基づき、本格的な労働改編を試みるとみられる。多くの専門家は、政府が来年度の経済見通しが良くないことを強調して「労働改革」の必要性を訴え、労働界に「労働改革の足を引っ張る勢力」というレッテルを張る可能性が高いとみている。経済危機を名分に労働改悪を進めるのは保守政府の古いレパートリーだが、尹錫悦政政権は今回の貨物連帯2次ストライキを通じて劇的な支持率の反騰に成功し、労組叩きの効果を確認した。
政府は貨物連帯がストライキを始めた直後から業務開始命令に続く警察捜査、公正取引委員会の調査圧迫まで、立て続けに労組側を追い詰めた。この過程で妥協はもちろん、対話すらも消えた。国土交通部は貨物連帯との対話の席に2回出てきたが、「まずストライキを撤回すべき」と主張する以外には、安全運賃制関連の何の妥協策も持ってこなかった。対話は意味なく終わり、貨物連帯は9日、事実上全面降伏するかのようにストライキを中止した。 だが、9日に韓国ギャラップが発表した世論調査結果によれば、尹大統領の国政遂行に対する支持率は33%で3週連続上昇し、支持すると回答した人たちは「労組への対応」(24%)を最も大きな理由に挙げた。政府が今回の貨物連帯ストライキでの勝利を機により一層自信を持って強攻策を展開し、政労関係が凍りついて労使関係にも苛酷な寒波が押し寄せるという懸念が高まるのもそのためだ。
中央大学のイ・ビョンフン教授(社会学)は「労働改革の局面で政府が労組を自分の思う通りひざまずかせて、不満を言えないよう口を塞ぐ形で追い込むと、労働界との衝突と対立は避けられないだろう」と語った。韓国労働研究院のイ・ジョンヒ労使関係研究本部長は本紙の取材に対し、「政府が本気で労働市場の二重構造(正社員と非正社員、大企業と下請け・中小企業の労働条件の格差)問題の解決策を模索するならば、責任ある者を交渉のテーブルにつかせ、話し合いの場を開く役割を果たさなければならない」とし、「劣悪な労働環境で働く人々をどのように保護するかは全く見せずに、今回のストライキ終了を法と原則基調の成功的遂行だけで評価するならば、それは時代錯誤的な認識」だと指摘した。
国際労働機構(ILO)のような国際機関、欧州連合(EU)などとの通商摩擦が再び浮上する可能性も少なくない。 カレン・カーティスILO国際労働基準局副局長など関係者たちは12日、最高裁(大法院)傘下の司法政策研究院が主催するカンファレンスに出席するため訪韓し、政府関係者とも面会する予定だ。韓国労働研究院のパク・ミョンジュン先任研究委員は「社会を形成する労組など結社体を認め、彼らが役割を果たしながら市場秩序を作っていくように導く方が社会的費用も少なく、民主的にも望ましいことを政府が認識しなければならない」と話した。
チョン・ジョンフィ、チャン・ヒョヌン記者(お問い合わせ japan@hani.co.kr )
https://www.hani.co.kr/arti/society/labor/1071156.html
韓国語原文入: 2022-12-12 05:00
http://japan.hani.co.kr/arti/opinion/45279.html
「The Hankyoreh」 2022-12-03 08:50
■[寄稿]韓国の貨物車労働者がストを行うわけ
貨物連帯が主張する安全運賃制度も必要だが、同時に貨物車労働者自らが運転時間の総量を制限する必要もある。これはすなわち、一部の労働者の犠牲を前提として安く利用してきた物流や配達のコストを、みなが今よりもう少し負担しなければならないということを意味する。
パク・クォニル|社会批評家、『韓国の能力主義』著者
【写真】全面スト中の貨物連帯の労働者に対する業務開始命令が国務会議で議決された29日、政府世宗庁舎内の国土交通部関連部署で、職員が業務開始命令の送達を準備している/聯合ニュース
2003年5月6日、国務会議で盧武鉉(ノ・ムヒョン)大統領が怒りを爆発させた。「理解できません。今、ひとつの都市の部分的機能が麻痺してしまっているのに、なぜ関係省庁の長官からは報告もないのですか?」、「いったい仕事をどのようにやってるんですか!」。怒りの矛先は国務委員たち、特にチェ・ジョンチャン建設交通部長官だった。この時、貨物連帯のストライキは浦項(ポハン)から始まり昌原(チャンウォン)や光陽(クァンヤン)へと拡散しつつあった。しかし政府省庁だけでなく多くの報道機関も、2003年当時は事態の性格を正確に把握できずにいた。(国政ブリーフィング特別企画チーム、『参与政府経済の5年』、2008)
通貨危機後に極端に悪化した不平等は、労働者・庶民を崖っぷちへと追いやった。貨物車の運転手はもともとは運輸業者の正社員だったが、1990年代半ば以降からいわゆる持ち込み制(運送会社に個人所有の車両を持ち込んで登録し、運送会社の名で車両を運行する制度)という形態が生じ、いわゆる特殊雇用労働者になった。韓国特有の悪質な下請け構造にあっては持ち込み制も例外ではなく、貨物車の運転手は非常に少ない収入を補うために過労以上の「超過労」をせざるを得なかった。当然、居眠り運転などによる交通事故も頻発し、多くの市民が事故で命を落とした。政府はこうした持ち込み制の問題を把握していたにもかかわらず、「自営業者と運送業者との自律契約」だとして放置していた。膿んだ問題は腫れ物のようにはちきれてはその場しのぎで解決されるのを繰り返し、今日に至った。
2022年11月の貨物連帯のストに対して尹錫悦(ユン・ソクヨル)大統領が発した「業務開始命令」は、実は盧武鉉政権時代における貨物自動車運輸事業法の改正に伴って作られたのがはじまりだ。業務開始命令に労働者が応じなければ刑事処罰されうる。2004年の導入時に用いられた過度に恣意的な表現、例えば「正当な理由なしに」、「大きな支障」、「非常に深刻な危機」などが曖昧すぎるという批判と共に、強制労働や団体行動権侵害に当たり違憲だとする批判もあった。労働界と市民社会が口をそろえて懸念を表明し糾弾したものの、結局は強行処理された。貨物車労働者に業務開始命令を下したのは尹錫悦政権が初めてだ。盧武鉉が作った鉄槌を尹錫悦が振り回しているわけだ。
貨物連帯のストに下された業務開始命令は、強制労働を禁ずる国際協約に違反している。韓国は国際労働機関(ILO)の強制労働条約(第29号)を批准しており、同条約は今年4月から発効している。強制労働条約は「処罰の脅威の下に強要せられ」る労働、「自ら任意に申出でたるに非ざる一切の」労働を強制労働と規定する。また、条約には例外、すなわち強制労働と規定することが困難な緊急かつ必須の労働が列挙されている。「純然たる軍事的性質の作業に対し強制兵役法に依り強要せらるる」労働、「完全なる自治国の国民の通常の公民義務を構成する」労働、そして「戦争の場合又は火災、洪水、飢饉、地震、猛烈なる流行病…一般に住民の全部又は一部の生存又は幸福を危殆ならしむる一切の事情に於て強要せらるる」労働だ。すなわち、救急医療は大きな枠組みにおいてこの強制労働の例外に属すると考えられる。しかし貨物車による運輸労働は、明らかに例外条項に当てはまらない。そのうえ業務開始命令は憲法上の基本権である団体行動権を制限しているため、違憲の素地も大きい。
尹錫悦政権の非理性的で違法な対応はそれとして、貨物連帯のストは市民に熟議を求めている。「超過労」で貫かれた貨物車運転は20年間、一部の特殊な労働者が直面してきた苦しみだが、大きく見れば韓国社会の普遍的問題でもある。高度成長期の労働集約型産業の労働だけでなく、「プラットフォーム労働」や、いわゆる「クランチモード」として有名なIT労働のように、近ごろ増えている多くの労働がこのように「過労するほど金が稼げる構造」だからだ。
この構造を変えるのは簡単ではない。今回の事案に限定するなら、貨物連帯が主張する安全運賃制度も必要だが、同時に貨物車労働者自らが運転時間の総量を制限する必要もある。これはすなわち、一部の労働者の犠牲を前提として安く利用してきた物流や配達のコストを、みなが今よりもう少し負担しなければならないということを意味する。コストをもう少し支払うなどと言うと、どんどん金を使ってしまうイメージを連想したりするが、そうではない。実は逆だ。予算は常に制約されている。仲間の市民の尊厳と安全のためにコストをもう少し負担するということは、究極的には生産量を減らし、消費量を減らすべきだということを意味する。それは人間を含む地球のあらゆる資源を搾取しながら暴走する成長神話から脱し、互いを大切にし、頼り合う世界への第一歩だ。だが果たして、私たちに脱する意志はあるのか。
パク・クォニル|社会批評家、『韓国の能力主義』著者 (お問い合わせ japan@hani.co.kr )
https://www.hani.co.kr/arti/opinion/column/1069838.html
韓国語原文入力:2022-12-01 18:57