貧乏神
丸尾茂平次は、早朝から地租の督促に家々をまわっていました。
「松う、おるか」
「よう見えてまっしゃろ」
夏の熱気は朝から強く、開けっぱなしの家の中はまるみえでした。
「そら、わしも(地租)払いたいんやが、みてのとおりなんもおまへん。泥棒かてきてくれまへんわ。
用心がよろしおますわ。
もうなくなるもん、なんにもあらへん。
残っとんのは、お婆だけでっせ。そいでよかったら、地租の代わりに持っていってもろたらよろします」
畑を買うてくれまへんか
「戸長はんにお願いがおますんやが」
松治は座りなおして、「わしの畑買うてくれまへんか。一反2円でええんや。5反おます。10円で買うたってほしい・・・」
松治は目を落とした。
お婆はんも可哀そうなもんですワ。
若うちに、ここに嫁にきて、働いても働いても貧乏神に取りつかれて、あげくに病気です・・・
近頃は、えらい気も弱おうなって、毎日“死にたい・死にたい”いうてます。
せめて、10円で畑、買うたってほしいんですワ。
せめて米の粥ぐらい食わしたいんです。
地租の話どころではなくなりました。
話をしながら、茂平次は隣の様子が気になっていました。
物音がしないのです。
「隣の与七とこ、えらいひっそりしとるな・・」
「きのう夜中に出て行きよったんや。どこやわからへん・・」
土地が売れない
以前では一反2~3円で売れていた畑も、最近では金に換えることが難しくなりました。
あまりに高い地租のために、土地を買ったらその負担が大きくなるので買い手がなくなってしまいましたからです。(no5031)
*『赤い土』の「地獄の一丁目」参照
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