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樹樹日記

じゅじゅにっき。樹木と野鳥に関する面白い話をご紹介します。

20年後の厄除け

2009年01月14日 | 木と宗教
42歳の大厄を迎えた頃、「どこかで厄除けしてきなさい」と母からお金(確か5,000円)を渡されました。今以上に不信心だった私は生返事をしたまま厄除けには行かず、そのお金を別の目的に使ってしまいました(親不幸者!)。
京都近辺で有名な厄除けは滋賀県の立木観音。宇治から琵琶湖に抜ける山道沿いにあり、秋のタカの渡りや冬のカモを見に行く際に前を通るので、その度に昔の親不孝を思い出していました。その自責の念を解消するためとブログの取材のために、先月約20年ぶりに母の言いつけを実行してきました(遅すぎっ!)。

       
                  (立木観音の本堂)

700段もある石段をハーハー言いながら、何度も休んで登りました。こんなに急で長い石段は初めて。翌日から3日間ほど足の筋肉痛が続きました。20年前に素直に参っておけばもっと楽に登れたのでしょうが、親不孝の報いですね。
弘法大師がこの地を通った際、対岸に光る木を発見したものの流れが急で渡りあぐねていると、白い鹿が現れて背中に乗せ、その木まで導いて観音菩薩に変身したそうです。この奇跡に感じ入った弘法大師が、その霊木に観音像を刻んで建立したのがこのお寺。弘法大師42歳のときだったとか。

       
              (鹿の背に乗った弘法大師の銅像)

私は以前からその霊木がどんな木で、立木に彫った観音像がどんなものか知りたいと思っていました。樹種がアカマツということは突きとめましたが、観音像は腐食を防ぐために根元から切り取って本堂に安置され、秘仏として一切開帳されないそうです。
一般的にマツは彫刻には不向きとされていて、仏像に使われることはほとんどありません。私が読んだ資料には「立木観音の制作年代は鎌倉時代」とありましたから、弘法大師が活躍した平安時代とは合致しませんが、やはり何かの因縁があってアカマツの立木に観音像が彫られたのでしょう。

       
         (護符や御守の納所。なぜか、焼けた丸太の木組み)

息も絶え絶えに頂上まで登った後、特別な厄除け祈願は頼みませんでしたが、護摩木(500円)を供え、ローソク(1本100円)も供え、お賽銭(500円)も投げ入れ、丁寧に心を込めてお祈りしてきました。これで、親不孝の負い目はなくなるかな?
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クリスマスツリー

2008年12月19日 | 木と宗教
あちこちにクリスマスツリーが飾られています。最近はイルミネーションと組み合わせて集客目的にする所が多いようです。
ヨーロッパではドイツトウヒ(マツ科トウヒ属)をクリスマスツリーにするようですが、日本では何故かモミ(マツ科モミ属)。ドイツトウヒの学名がPicea abies、モミの学名がAbies firma、ドイツトウヒの種名とモミの属名が同じであるために、どこかですり替わったのでしょう。

             
         (ドイツトウヒ。葉が枝から下に垂れるのが特徴)

ツリーウォッチャーとしては、実際のクリスマスツリーにどんな樹が使われているのか気になるので、近くをウロウロしてきました。
まず園芸ショップを覗くと、クリスマスツリー用にウラジロモミを販売していました。高さ1.5mのもので6,000円。ウラジロモミはモミと同じくマツ科モミ属、つまり日本式です。

             
          (園芸店のクリスマスツリーはウラジロモミ)

京都府立植物園では、園内のハリモミ(マツ科トウヒ属)をクリスマスツリーに仕立て、イルミネーションで飾って夜間入園を催しています。名前はモミですがトウヒの仲間。植物の専門施設なのでルーツのドイツトウヒに近い樹種を選んだのでしょうか。

       
          (京都府立植物園のクリスマスツリーはハリモミ)

同志社大学ではキャンパス内のヒマラヤスギをクリスマスツリーに仕立てて、同じくイルミネーションで飾っています。こちらは名前はスギですが、植物学的にはマツ科ヒマラヤスギ属。キリスト教系の大学なのに、クリスマスツリーの樹種にはこだわっていないようです。
樹形が円錐形で、常緑の針葉樹なら何でもいい…、そんな感じになってきました。そのうちスギやヒノキもクリスマスツリーになるかも。

             
         (同志社大学のクリスマスツリーはヒマラヤスギ)

本家本元、バチカンのローマ法王庁でも毎年クリスマスツリーを飾っています。今年はオーストリア南部の森から寄付された樹齢120年、高さ33mの木(多分ドイツトウヒ)が使われたそうです。エコロジーの世論を配慮してか、撤去後は恵まれない子どもたちのおもちゃや学校のベンチなどに再利用するとか。
クリスマスツリーにも時代が反映されていますね~。
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大文字

2008年08月15日 | 木と宗教
明日16日、京都では「大文字」が行われます。誰が考えたのか、山に火で文字を書くというアイデアはユニークかつ壮大です。
大の字を描くのはマツの薪。巨大な文字ですから燃やす薪の量も半端じゃありません。大文字だけで600束、樹齢50年以上のマツを十数本使うそうです。正式名称を「五山送り火」と言うように他に4つの文字や絵が描かれますが、妙法400束、船形400束、左大文字350束、鳥居形108束、五山で合計1858束の薪を燃やすのです。

       
           (準備中の大文字。白いのが作業中の人間)

その薪はこれまで大文字山などに自生するマツでまかなってきたそうですが、最近は松枯れ病の被害もあって、木材不足が深刻になっています。また、京都にはもう一つ火を燃やす鞍馬の火祭りがあり、そのタイマツに使うコバノミツバツツジも不足しているそうです。
こうした伝統行事の窮状を打開するために、京都府と京都モデルフォレスト協会、三井物産が提携して必要な木材を供給する活動を始めました。三井物産が京都市右京区に保有する山林を無償貸与し、協会がマツとコバノミツバツツジの伐採や山林の管理を行うということです。

       
             (午後8時、最初に点火される大文字)

大文字保存会も「中期的なマツ材確保のめどが立ち、その間に大文字山でマツを育てられるのでありがたい」と話しているとか。活動期間は10年間ですから、とりあえずは木材不足のために京都の伝統行事が開催できなくなるということはなさそうです。
なお、画像は2点とも京都市在住の友だちから借りました。
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木祭り

2008年04月09日 | 木と宗教
和歌山県まで足を伸ばして「木祭り」を見てきました。
JR和歌山駅からローカル線に20分ほど乗ると、木の神様・五十猛命(いたけるのみこと)を祀った伊太祁曽(いたきそ)神社があります。この神様は天から木の種を持って降りてきて、日本中に木を植えて回った後、この地に鎮まったそうです。
木の神様がいらっしゃる国だから「木の国」、それを雅字で表記して「紀伊国」になったとか。吉野杉を紀の川(これも元は木の川)で運び、和歌山港から京都や大阪、酒所の灘に供給したので「木の国」と呼ばれた、という説もあります。

       
         (一の鳥居。幟が祭りの雰囲気を盛り上げています)

ある人にこの神社のことを教えていただき、調べてみると当ブログの氏神様みたいな神社なので、「これは行くしかない」と思って木祭りの日(毎年4月第一日曜)に出かけました。
迎えてくれたのは立派な木の鳥居。多くの神社が石の鳥居を据える中、一の鳥居、二の鳥居とも木製です。また、境内の樹にはちゃんと樹種名を書いた札がかけてあり、木へのこだわりが見て取れました。

       
          (ご神木のスギ。2代目が育成されています)

ご神木はスギ。昭和37年の落雷で炎上したため、現在は焼け残った幹だけが立っていますが、案内板によると樹齢1000年だったそうです。
和歌山県の木材組合や林業関係者による神事と記念植樹、餅まき、アトラクションのチェンソーアート、出店などがあり、地元の方々を中心に参拝客はおよそ500人。ちょうど桜も満開で、あちこちでお花見弁当を広げているグループもあります。

       

私もお餅をキャッチしたり、木工品の出店を冷やかしたり、紀州産の柑橘類を買ったりしながら氏神様のお祭りを楽しみました。もちろん、「このブログがいつまでも続けられますように」と祈願もしてきました。
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世界の棺材

2008年02月18日 | 木と宗教
以前、私たちが死んだらモミの棺桶であの世に旅立つ、と書きました。昔はコウヤマキ、今はモミが日本の主な棺材ですが、外国ではどうなんでしょう。
インドでは、紀元前3000年の遺跡からヒマラヤスギ製の棺が出土しています。また、ある経典によると、シャカは臨終の際に「私の遺体を香油で洗い、綿布で包み、ビャクダンの棺に入れて荼毘にふせよ」と言ったとか。以来、仏教の伝来とともに中国でもビャクダンの棺が最高級品とされていたようです。

            
  (古代インドで棺に使われたヒマラヤスギ。世界三大公園樹でもあります)

このほか、中国では一般的にはコノテガシワ、キハダ、クスノキなどを、天子の棺には優良材として知られるキササゲを使ったそうです。現在、一般庶民の棺はタブノキ製だとか。
ヨーロッパではミズナラが使われています。昔は北海道のミズナラがたくさんヨーロッパに輸出され、家具や酒樽に使われましたが、一部は最高級の棺にもなったそうです。それぞれの国や時代、宗教や埋葬方法、そして樹木の生育状況によって棺の材料もいろいろですね。

       
  (栃の森のミズナラの巨木。日本のミズナラはヨーロッパで最高級の棺材)
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絵馬

2008年01月09日 | 木と宗教
お正月らしく、絵馬の話を。
もともとは本物の馬を神様に奉納していたものの、負担が大きいので、絵に書いて奉納するようになったのが絵馬の始まりだそうです。
現在は馬の絵は少なく、それぞれの神社に縁のある絵柄を描いた絵馬が多いようですが、昨年訪れた奈良文化財研究所には本来の絵馬が展示してありました。形も現在のような屋根型ではなく四角形。当時は槍鉋(やりがんな)で削ったので、表面には凹凸があります。

       
       (平城京跡から発掘された絵馬のレプリカ。約30cm×20cm)

面白い形の絵馬もあります。京都市のほぼ中央に、御金(みかね)神社という小さな神社があります。某新興宗教の分派らしいですが、金色の鳥居と金運の願い事で知る人ぞ知るスポットになっています。
ここの絵馬は、ご神木がイチョウということもあってイチョウの形。上部に裂け目を入れて、イチョウの葉をリアルにかたどっています。

           
             (御金神社の絵馬はイチョウの形)

平城京で発掘された絵馬の材は多分ヒノキですが、現在の絵馬はほとんどがスプルース。アメリカやカナダから輸入したマツ科トウヒ属の木材です。比較的白いので絵柄が印刷しやすく、願い事の文字も書きやすいからでしょう。
私の散歩コースにある神社にもいろんな絵馬が奉納されています。人の絵馬を見るのはタブーかも知れませんが、先日感動的な絵馬に出会いました。お宮参りの絵馬でしょう、「健康で賢く育ちますように 私の子に生まれてきてくれて 感謝します ありがとう」と細い字で書いてありました。
私は男のくせに涙腺がゆるいのですが、赤ちゃんを授かったお母さんの喜びが伝わってきて涙が出てきました。今も書きながらもウルウルしています。
みなさんは今年の絵馬に何を書きました?
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木曽ヒノキを削る宮師

2007年10月17日 | 木と宗教
前回に続いて、「仕事そっちのけ京の匠取材」シリーズ。この前は仏様でしたが、今回は神様。
京都の都心の少し南に、現世と冥界の境目と言い伝えられる地域があります。その伝説と関係があるのかどうか分かりませんが、町の一角に神具を作っている店があったので取材しました。

      
           (製作中の三宝と木曽ヒノキの鉋くず)

店主の名刺の肩書きは「宮師」。神祭具をつくる職人をこう呼ぶそうです。店内には木のいい香りが漂っていて、いろんな道具や作りかけの三宝が並んでいます。こういう職人の世界は大好き。
例によって、木材のことを尋ねると「木曽ヒノキ」とのこと。しかも、最高級のヒノキでないと威厳のある神具が作れないそうです。ヒノキならではのきめの細かい肌や、清浄感のある白い色が神具には必要なのでしょう。しかし、前回の仏像も今回の神具も木材はヒノキ。「日本はヒノキの文化だな~」と実感しました。

      
        (神棚に飾るお社。木曽ヒノキならではの美しい木肌)

今の私たちは神棚に飾る三宝やお社を買うことはほとんどないと思いますが、このお店は神社用ではなく、一般用の神具を作っています。京都にはそれだけの需要があるということですね。ちなみに値段を尋ねたら、三宝は7寸サイズが7,300円、お社は20,000円からということでした。
こうした伝統工芸の多くは後継者難を抱えていますが、この店では娘さんが跡を継ぐことになったそうです。別の日に店の前を通ったら、若い女性が黙々と作業していました。
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尾州ヒノキを彫る仏師

2007年10月15日 | 木と宗教
先日、仕事で京都市内にある仏像彫刻の工房を取材しました。
樹木とは関係のない仕事でしたが、これ幸いとばかりに木のこともしっかり聞いてきました。歴史的に仏像の材がクスノキからヒノキに変ったことは知っていたので確認したら、やはりヒノキが中心とのこと。

          
          (工房にあった制作途中の仏像)

取材した若い2代目は「尾州ヒノキ」と言っていましたが、木曽ヒノキのことでしょう。尾張藩が管理していたのでそう呼ぶのだと思います。年輪が細かく均一なので彫刻しやすいそうです。
その尾州ヒノキを丸太で買って、使う土地(京都)で5~10年乾燥させ、しかも、粗彫り、本彫り、仕上げまで2年くらいかけて彫るのが理想的だそうです。

      
           (仏像や位牌を彫るための道具)

「芸術系の大学で彫刻を勉強されたのですか?」と尋ねると、仏師には彫刻の技術以上に仏教の知識が必要だそうで、仏教系の大学で勉強したとのこと。彫刻の技術はお父さんに教わったそうです。

          
       (この工房オリジナルの位牌。値段は10万円~)

仏像以外に位牌も作っていて、たくさんの位牌が並んでいました。最近は生前に位牌を作る人も多く、しかも、例えば魚釣りが好きな人が魚の絵柄を描いて欲しいと注文することもあるそうです。以前、位牌はケヤキやホオノキと紹介しましたが、この工房ではマツを使っていました。
仕事で訪れた工房でしたが、仕事そっちのけでワクワクしながらインタビューしてきました。
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死後もお世話になる木

2007年08月17日 | 木と宗教
以前、死んでからお世話になる木として棺の話をしました。でも、死後にお世話になる木は棺だけではありません。あの世に行った後、遺族と接する窓口である位牌も木製です。
位牌にもいろんな種類があります。漆を塗った「塗り位牌」のほか、黒檀、紫檀、欅、花梨など木地をそのまま生かした位牌もあります。塗り位牌の材質は、ヒノキ、ヒメコマツ、ホオノキなど。

      
     (実家の仏壇には父の位牌と先祖代々の位牌が並んでいます)

昔は塗り位牌が主流でしたが、戦争中に金箔や漆が不足したためにケヤキを木地のまま使った位牌が使われるようになり、その後コクタンやシタン、カリンなどの唐木ものの位牌が作られるようになったそうです。また、関東では箱型のケヤキ仏壇が多いため、ケヤキやコクタン、カリンの位牌が多く、関西では塗り位牌が多いとか。
お盆に帰省した折、実家の仏壇を確認したところ、やはり塗り位牌でした。手に持つと意外なほど軽かったので、材質は多分ホオノキでしょう。
ネット上には位牌の通信販売もあり、10万円以上の豪華なものも並んでいます。当然ですが、申込フォームには戒名や没年月日の欄もあります。
日本人は昔から、生まれたら木製のタライで産湯をつかり、死んだら棺や位牌で木のお世話になってきました。日本の文化は木の文化とも言えますね。みなさん、死んでからもずーっと木とは縁が切れないんですよ。
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トーテムポール

2007年07月30日 | 木と宗教
最近、新しい仕事先ができたので、大阪の万博記念公園にちょくちょく行きます。ジェットコースターの死亡事故があった「エキスポランド」のすぐ近くです。
先日、打ち合わせが終った後、公園内にある国立民族博物館前を何十年ぶりかで見学してきました。子どもみたいな感想ですが、「スゴかった!」。1日では見学しきれないほどの展示物です。特に期待していたわけではないですが、木のこともいろいろ勉強になりました。
そのうちの一つが、トーテムポール。下の写真はカナダの先住民がレッドシダーの巨木を用いて彫ったものです。

          

トーテムポールは、先祖の功績を称えたり、神話を描いたり、死者を記念するために制作されたもので、グループの紋章である熊や鮭、鳥(写真はワタリガラス)などがモチーフになっています。案内板によると、写真のように巨大化したのは欧米人相手に毛皮交易を始めた19世紀なかば以降のことらしいです。
レッドシダーはヒノキ科の樹木で、カナダの太平洋岸地域に分布しています。先住民はカヌーや住居の材料にも使っていて、製材後800年経過しても性能が衰えない事例があるそうです。1300年前に建てられた世界最古の木造建築・法隆寺の柱も強度が衰えていませんが、ヒノキの仲間は驚くべき耐久性を持っています。

          
     (屋外に設置してあるトーテムポール。上のモチーフは鷹かな)

博物館の中には他にもこうした展示物がありましたが、民芸品には芸術作品にはない強さというか力があります。万博公園のシンボルである「太陽の塔」も一種のトーテムポールかも知れませんね。
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