『幕末百話』(今年100冊目)

2012-12-26 00:00:22 | 書評
bakumatu100今年の100冊目は、『幕末百話』という角川選書の中の1冊。11月を終わった段階で97冊を読了していたので、楽勝のはずだったが、今月は色々な想定外のできごとが多発し、年末になってしまった。

この本、実は数十年前に読んだ記憶があって、いつも再読のチャンスを狙っていたのだが、その時には、まだ歴史に興味も薄く、読むのに多くの苦闘時間を要したような気がしていて、身構えが必要な感じを持っていた。

なにしろ、この百話が最初に世に出たのは明治35年のこと。幕末の記憶も徐々に人々の記憶から薄れゆく中で、報知新聞に連載される。維新をはさんで前後に十年ほどの幅をもった実話を、古老から聴き取る形で百話が完結している。その後、内外出版協会より一冊の単行本として出版される。そして昭和4年に増補改訂され、さらに明治百年の記念出版として昭和44年に角川より復刊されている。もうその頃には維新を知る人もいなくなり、もっぱら時代小説のタネ本になっていたそうだ。そして、この角川選書は昭和50年第十版となっている。

ペリーが日本に押しかけて以来、武士階級がなしくずれになっていき江戸市内の治安が崩れて行き、辻斬りとか放火とか、封建制度が内部から崩れていった実態が読み取れる。下級武士が抜擢されたというか、武士階級内部の身分制度自体がなくなっていく過程だったのだろう。

また、勝海舟と西郷隆盛の急戦協定の後、薩長軍が江戸市内に入って三日間は、切捨御免で、幕府方とみるや、バサバサと容赦なく切り捨てたり、捕虜になったとしても、どこかに連行していって、首切りを進めていたのだが、突如、天皇即位の恩赦ということになって、ある日を境に首切り終了となったことなども書かれている。

幕府方の武士は、薩長が侵入してきた日に、まごまごして逃げ遅れ、上野の山にこもった瞬間に、そのまま、北へ北への落武者街道にはまってしまい、よほどの変装の名人だけが江戸に再潜入し、花屋などに偽装して時間を過ごし、助命が決まってから投降・謹慎して人生再スタートという幸運に恵まれたようだ。「潔ぎよし」なんて概念は、あったのだろうか。土方だけか。

そういう話が百話にわたって書かれているのだが、案外、スラスラと読めるものだ。今や幕末のことを結構知っているからだろうか。

書き漏らしたが、1837年に大坂で起こった大塩平八郎の乱だが、幕末の江戸の市民もその情報をかなり正確に知っていることが書かれている。やはり幕末は大塩による一発の銃声から始まったといってもいいのではないだろうか。


なお、『幕末百話』の姉妹編に、『明治百話』があるそうで、現在は、『幕末百話』も『明治百話』も岩波文庫に収録されているそうだ。こうなると電子書籍で読むほうがいいのかもしれないが、現物の本の難易度と分量を大型書店で確認してから着手すべきなのだろうか。


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