月はピアノに誘われて(木根尚登著 小説)

2020-04-20 00:00:08 | 書評
“TM NETWORK”の一員としてのミュージシャンの姿が表芸とすれば小説を書くのは裏芸のようなものだろうか。その中間が作曲ということかもしれない。

1991年に出版された単行本が角川文庫になっている。もう29年経っているのだが、日本の芸能界は今でも旧態依然で、人気が出たタレントやミュージシャンの引き抜きが行われたり、成功した人間を妬んだり、足を引っ張ったり、横取りしたり・・



杉本暁美27歳。傾きかけた父の音楽プロダクションを立て直すために悪戦苦闘する。オヤジバンドを改造してコーラスグループで成功させたものの、中傷誹謗を受け、ニューヨークへ脱出、そこでも芽が出ず、とうとうアポロ劇場のアマチュア・ナイトに出演。日本で言えばNHKののど自慢みたいなものだ。

そして、ヤケッパチになって東京音頭をラップで歌い、大受けする。

そういえば、少し前に観た映画の『ドリームガールズ』。これもアポロ劇場のアマチュアナイトでの実話に基づいている。ダイアナ・ロスとスープリームズがモデルだ。そんなレベルのわけだ。

この小説は、ストーリー的には巧くできているのだが、巧くできすぎていて、本当らしくない、という欠点があるような気がする。注意深く読むと、杉本暁美の父親と敵対するプロダクションの社長とは相当以前に女性を巡るトラブルがあったようだし、オヤジバンドの一人は娘の難病と闘っていた。さらにアポロ劇場に出演前に、路上ライブで練習中に、音楽少年たちが興奮してしまったことなど、もっと深く筆を入れた方がいいと思えるところもあるだろう。もっとも、そうなるとページ数も倍になりそうだ。

それと、日本でミュージシャンとして売り出す第一歩は「ライブハウス」ということ。コロナの第一原因として「三密」の代表にされてしまい、これではしばらくは新人は現れないだろうと思わざるを得ない。

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