パレード(吉田修一著 小説)

2020-08-19 00:00:41 | 書評
純文学とエンタメの間で、反復横跳びしながら小説を量産中の吉田修一氏の2002年作。男女4人の共同生活がリアルに描かれ、山本周五郎賞を受賞した作品。同年には「パークライフ」で芥川賞を受賞し、現在は芥川賞の選考委員。

本作には著者の傾向が著しく反映されている。

結構有名な小説で、読んだ人(あるいは映画で観た人)は、筋を忘れることはないような過激な展開が最後に起こる。

parade


東京の2LDKに住む男女4人。それぞれが自分の本性を隠し、うわべだけで生活をしているが、なんとなくそれぞれの心理的バリアに気が付いている。なにかが起こるわけではないが、何かが不安定に感じさせる男女の生活。そこにふとしたことから不思議な男子が加わり5人になる。

読者(というより、私)は、ところどころに伏線のように記述される大小の怪しいできごとの解釈に苦しみながら、たんたんと平凡に続く5人それぞれの視点でモノローグのように書かれる文字を追いながら、読み進むしかない。これがミステリーなら、バラまいた種は刈り取らないといけないということになる(ミステリーでなくても最後に回収されないと困る)。

そして、最後に突然、目が覚めるような事態が発生する。

この小説を純文学というカテゴリーで考えた場合、「現役殺人鬼」が主役として登場したレア本ということになる。国内文学ではあまり記憶にない。海外文学ならドス氏の「罪と罰」とかカミュ氏の「異邦人」という有名なのがあるが、どちらも最初に殺人があり、後半で理解不能な意味付けが語られる。本書のように最後に犯行があって、同居人が卑怯にも見て見ぬふり、つまり無関心を装うというのは、ある意味では映画『万引家族』(実はニセ家族)に通じるところもあるかな。

読後、未回収のエピソードが二つ残り、ネタバレ読者サイトを調べ回ったが、解明されなかった。

事件にどのように落とし前をつけたのか、続篇を期待してしまう。

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