源義経(角川源義、高田実著 歴史)

2021-10-10 00:00:11 | 歴史
まず、共同著者の一人である角川源義氏だが、国文学者であると同時に角川書店の創業者である。本書は無論のこと、角川新書である。



日本史(いや世界史でも)には、悲劇のヒーローがいる。その中でも巨大化したのは源義経(1159-1189)。源平合戦の最後の方で登場し、あっという間に木曽義仲や平家ご一同様を、あの世送りにしたものの、強すぎて政治的天才だった兄の源頼朝に命を狙われることになり、逃げ回って奥州平泉の雄である藤原家に匿われたが、その藤原家に討たれる。

しかし、歴史的見方で義経のことを見ると、奇妙なことに彼の記録というのは、唐突なことが多いわけだ。それを「義経物語」や「吾妻鑑」で補うといかにも波乱万丈な一生が完成するのだが、それらの文献は200年以上も経ってからのもので既に十分に脚色されているとみられる。

たとえば少年の時に鞍馬山を抜け出して奥州に向かったことになっているが、奥州から22歳の時に突如として異母兄の源頼朝の前に現れる間、何をやっていたのかはっきりしない。さらに突如現れたこの男が、源氏軍を率いて京都に向かって進撃するまでの2年間も不明。もちろん兄弟で争ったあと再び平泉に逃れた途中ルートも不明なことが多い。

とはいえ、日本史的にいうと国民的英雄ということになる。実際には、配下の人間たちは盗賊のような者が多く、雌伏中は悪行を重ねていたのだろうと思うしかないが、いずれにしても悪党が歴史の中で英雄に変わっていったのはなぜか、それを追求する主旨の本ではあるが、目的から言うと、少し踏み込み不足の感は残る。

それと、著者も書いているが、戦争というのは多くの悲劇を招くもので、義経のように武功を遂げてから非業サイドに落ちるのはいい方で、何ら武功を上げるチャンスもなく胸に一発の矢を撃ち込まれたり、船が沈没して海のもくずになったりした可哀そうな武士は多数いるだろうし、田畑を荒らされ、家を焼かれ、食糧を奪われた農民も多数だろう。

第二次大戦の時は武功もなく一億総悲劇になってしまったわけだ。