リベットの実験の周辺

2017-12-08 00:00:48 | 市民A
「リベットの実験」といっても、鉄杭の強度検査の不正を暴こうという話ではない。アメリカの神経学者のベンジャミン・リベット(1916-2007)氏が1983年に発表した、科学史に残る「自由意志の存在に疑義がある」ことを実験したことである。

もともと、私は将棋の有段者であるが、人間とAIの頭脳の差について色々調べているうちにこの重要な実験があることがわかった。

実験方法について様々な疑問がでているのだが、数値的な誤差の話であって基本的な核論ではないので、結論から書いてみる。

実験は、被験者に好きなタイミングで手を動かすことを指示して、その意志と、脳の動きと手の動きの時間の関係を確認するというもので、普通に、機械操作のように考えれば、

1.手を動かそうと決断する
2.脳が反応して電位が変化する
3.手が動く

と思われるが、それが違うわけだ

1. 脳が反応して電位が変化する
2. 手を動かそうと決断する
3. 手が動く

これが、仮に野球選手の顔にボールを投げると考える前に手が出る、というのと異なるのは、被験者に対して、「好きな時に手を動かして」ということなのだ。だから、文字通り好きな時を選んで、さあ手を動かそうということになって手が動くということになるはずが、ならないわけだ。

時間的に言うと、手を動かそうと思う約0.35秒前に電位に変化があらわれるそうだ。そして、動かそうという意思を持ってから0.2秒後に手が動く。合計0.55秒。この実験は再現実験で、さらに精緻化して、実際に手を動かす0.2秒前までなら手を動かさない決断がとれるということ。つまり、単純に考えると無意識のうちに脳が手を動かすことを決め、その決断を意識した瞬間に「やめた」と思えば手は動かないが、思わなければ手が動くということになる。

もう一つ、切り口が違うのだが有名な仮説があって、人間の知覚と現実の時間差であるが、たとえば殴られて痛いと感じるには時間差があって、0.5秒程度かかるのだが、その時間差を脳は補正して同時に感じたように調整するらしいということ。

もちろん、にわかには信じられず、鏡の前で動いてみて、目から入る情報と実感している体の状況では神経の長さも異なり、タイミング差が出そうだが、そんな話は聞いたことがない。

いずれにしても、コンピューターやAIといった世界より人間の意識はかなり複雑な仕組みになっていることがわかってきたようだ。