庄野潤三、老衰で逝く

2009-09-23 00:00:25 | 書評
shonoj小説家の庄野潤三氏が9月21日に亡くなる。88歳。老衰ということだそうだ。

だいぶ前になるが、彼の小説を読みこんでいて、文学全集まで買って初期の作品を読んでいた。『プールサイド小景』『静物』『絵合せ』など。文学全集は、本人が亡くなると、中古価格が上がるのだろうか、あるいは下がるのだろうか、などと不埒なことは考えない。

作風は、どこにでもいる小市民の心象を、軽いけれどもしっとりと適度な湿り気で描く。文学の印象派である。米国のニューヨーカーに似ているようで似てないような。(勝戦国と敗戦国の精神的な差がある)

なんとなくだが、この人と古井由吉に限っては、老衰で亡くなるような予感を持っていて、一人は当たり、もう一人はまだわからない。

文学史的には「第三の新人」というカテゴリーの真ん中にいて、その前の世代が、太宰治、坂口安吾、高見順などの「戦後派」と呼ばれ、第三の新人のあとの世代が、大江、石原、倉橋、公房といった個性の強い作家群である。

「第三の新人」の中には、小島信夫、島尾敏雄、近藤啓太郎、安岡章太郎、吉行淳之介など。戦争に少しだけかかわって、生き延びた口が多い。すでに多くが他界して、安岡章太郎氏も89歳である。


shono若いころから、毎年一作のペースで85歳まで執筆していたようだが、最後の単行本が2006年の『星に願いを』。

肉体的に書けなくなったのか、あるいは筆を置いたために心に梁がなくなったのか。

愛読作家が亡くなるのは、ちょっと感傷的になる秋の始まりだ。