「就位」(しゅうい)は、大昔は「襲位」と書いたのだが、「襲う」という漢字は新聞にふさわしくないということで、廃止されたのだろうか?とかいきなり考えてしまう
さて、将棋界の最高峰は、江戸初期から繋がる「名人戦」であるのは間違いないのだが、朝日・毎日の名人戦争奪戦争の結果、貧乏な毎日新聞がスポンサーになってしまい将棋連盟も金策に困っていたのだが、社の方針が「娯楽記事中心」という読売新聞と相互の短期的目途が一致した将棋連盟が、「(賞金額)最高位のタイトル戦」と打ち出して「竜王戦」を作った。
今回の竜王戦は、昨年タイトルを獲得した21歳の渡辺明竜王が挑戦者の木村一基七段を七番勝負で4勝0敗と粉砕。内容的には全く盛り上がらなかったのだが、「仕事は早いほうがいい」という一般的な勝負の鉄則通りだ。
就位式は、米長邦雄将棋連盟会長のスピーチで始まったのだが、列席の読売新聞の重役達を意識して、読売新聞を持ち上げるのだが、正力松太郎氏をずいぶんほめていたが、竜王と同じ苗字の人物のことは、一言もなかった。「本人がいないところでは、シカトする」という新聞社内のルールをよく知っている。
そして、允許状の授与のあと、読売から優勝カップと賞金授与。大きな祝儀袋の中身は3,200万円なのだが、和服の懐に入れず、椅子の上におきっぱなしにして、オードブルのテーブルに行ってしまったところを見ると、中には現金は入ってないのだろうと推測。あるいは、彼にとっては大金ではないのかもしれない。
ところで、将棋界にも派閥構造が存在する。大きくは、中原前会長を中心とした「高柳派」と言われるグループと米長邦雄現会長を中心とした「佐瀬派」というグループだ。そして、今回のような新聞社主催のパーティには、両派が出席するが、普通の「○○八段昇段パーティ」というような私的なパーティは、派閥内で行なわれるのだが、中間派は情勢を見ながら、あちこち重心を移動させる。プロの四段になるには、奨励会に入らなければならないのだが小学校高学年の時だ。その時の師匠が所属する派閥が、強いか弱いかなんて、見極められるはずもないのだが、結構、後でこれが物を言う。
普通、プロ棋士の収入は対局料だけだと思われがちだが、色々と副収入はある。公開対局のように立派なのもあれば、将棋大会の審判長とかこども将棋の客寄せ、あるいは雑誌に掲載される詰将棋だって有名棋士の名前になっているが、下請け、孫請けの世界だ(あまり書くと、石の下にいる師匠に破門されるのでここまで)。棋士はすべて個人事業者であるから、仕事=おカネということになる。カネの流れの上流を押さえることが、一門の繁栄のためには重要なのだ。
ところで、少しためになった話がある。彼の書籍の発行元である浅川書店の社長の話なのだが、渡辺竜王は、1年前にタイトルをとった直後から、既に1年後の防衛戦のことをイメージしていたそうだ。彼の予感の中には、最強男である羽生善治が、7大タイトルを1年間で全部奪っていき、防衛戦の時には、自分の持つ「竜王」以外のすべてのタイトルをとり、最後の一つになっている、という予想していたというのだ。カメラはすべて羽生六冠の顔を写すために、自分の後ろに回ってフラッシュを光らせる。そういう心理的に不利な条件を頭に思い浮かべてイメージトレーニングしていたそうだ。
そして、実際には、羽生善治六冠にはならず、四冠止まりであり、さらに竜王戦の挑戦者にはなれなかったわけだ。
驚くことに、このイメージトレーニングの話は、パーティの数日後には全棋士や強豪アマには知れ渡り、将棋指しのブログを読むと、イメージトレーニングを始めたものばかりだ。(といって全員がこれをやれば、効果はない。あくまでも平均勝率は50%になのだから)
ところで、パーティの主役はもちろん渡辺竜王だが、4歳年上の奥様と1歳半の長男と一緒で被写体になってくれた(というか、みんな勝手に写していた)。こどもの目つきがきつい。彼のブログを読んでいるのだが、将棋の駒をニギニギして放さないそうだ。ナニワ方面には「あきんどの 子はにぎにぎを よく覚え」という一句があるが、この子の将来も楽しみだ???
そして、35歳の新四段の瀬川氏も来ていたが、並ぶと私より背が高い。プロはこどもの時分から正座するので、私より背が高いのは少ないのだが、150人のプロの中でも上から5番目くらいではないだろうか。
そして、ついうっかり、ある暴力棋士(九段)のいるテーブルにいることに気が付く。数年前、成田空港で乗り遅れた腹いせに航空会社のカウンターで暴力行為に出たところを逮捕された。パーティの初めの頃はウーロン茶を飲んでいたので、他の棋士も寄ってきていたのだが、そのうち誰も近づかなくなった。よく見ると飲み物が水割りに変わっている。何しろ、このパーティに出席しているメンバーはプロでもアマでもほとんどが高段者で知能指数が高い(はず)。暴力棋士の飲み物が危険物に変わったことを見逃すわけはないのである。
そして、私も危険を察知し、ローストビーフ、天麩羅、握り鮨、鯛茶漬けをたいらげデザートを口に押し込み会場から逃げ出すことにする。