東飯坂の集落から西飯坂に抜ける坂道は、その木々が茂り、うっそうとした場所であったのだろう。そのため「うっと峠」と呼ばれていた。
この場所の桜を見た時、『志方町誌』にある伝承を思いだした。
わしは谷の地蔵じゃ!
・・・ずっと昔の冬のある日、坂に西の方から、山沿いに一人のお坊さんが歩いて来た。
日が暮れて間もない頃であったが、もう、その顔立ちや風体などは見分けられなかった。大きなふろしき包みを大事そうに背負っていた。
いかにも疲れたらしい足どりで坂を下ってきて、村へ入ると道端の石の上に腰をおろして休んだ。
しばらくすると、少々元気を回復したように腰をあげて、東の方へ歩いて行った。
もうとっぷり日は暮れていて、お坊さんは暗闇の中に呑みこまれるように、消えてしまった。
そのあくる日から不思議なことがおこった。
そのお坊さんが休んだ日暮れの頃になると、道ばたの石(写真下)の前を通る人の耳に、どこからともなく『わしは谷の地蔵じゃ』という、ささやくような声が、聞こえるのである。
日が経つにつれ『わしもその声を聞いた』『わたしも聞いた』という人が、だんだん多くなっていった。
そして、だれ言うとなく『あの坊さんが腰をおろした石が、ものを言うらしいぞ』ということになった。
すると、『あの坊さんが背負っていたのは、谷の地蔵さんにちがいない』という人もあって、噂は噂を呼んだ。
これは谷の地蔵さん(長楽寺の地蔵)が、この村に教化をたれるためにちがいない。「あの石に地蔵さんがのり移られたのだ」ということに皆の意見が一致した。
この石は、「ささやき地蔵」とよばれるようになぅった。
「うっと峠」の頂上で祀られる
「ささやき地蔵」は、東飯坂の「うっと峠」をのぼりつめたところで、中央消防署志方分署のすぐ南で、お堂の前の道に面した所にある。
昔、この「うっと峠」の頂上辺りは寂しい不気味な場所であったのだろう。
今の時期、この場所は一瞬の華やかな桜で彩られるが、桜のない昔の「うっと峠」の風景を想像してしまう。
写真上:「うっと峠」の頂上部の桜 写真下:ささやき地蔵
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