一身上の弁明
攻撃の標的となった美濃部達吉は、貴族院の議場で自分に対して投げつけられた、「学匪」などの誹誇を容認できず、「議場で弁明をさせて欲しい」と発言の機会を求めました。
憲法学という学問に自分の一生を捧げてきた美濃部にとって、議場で、学者への最大限の侮辱とも言える「学匪」という言葉を投げつけられたことに我慢できなかったのです。
その結果、美濃部は2月25日の午前に貴族院で「一身上の弁明」として反論を行うことを許され、「天皇機関説」は、決して天皇への不忠でも不敬でもなく、また当時の日本の「国体」を揺るがすような反逆的思想でもないことを訴えました。
美濃部は「私は、菊池男爵が憲法の学問について、どれほどのご造詣があるか知らない者でありますが、菊池男爵が私の著書について論じておられるところを速記録で拝見いたしますと、果たして私の著書をご通読になったのか、仮にお読みになったとしても、それを、ご理解なされているのであるかということを、深く疑う者であります」と発言しています。
また、美濃部は、天皇機関説が、批判者が言いがかりをつけているような、天皇の権威や地位を軽んじるものではないことを、次のような言葉で説明しました。
「いわゆる機関説と申しますのは、国家それ自身をひとつの生命であり、それ自身に目的を有する恒久的な国体、すなわち法律学上の言葉をもって申せば、ひとつの法人と観念いたしまして、天皇はこの法人である国家の元首という地位におられ、国家を代表して国家の一切の権利を総撹(そうらん)(掌握して治めること)され、天皇が憲法に従って行われる行為が、すなわち国家の行為としての効力を生ずる、ということを言い表すものであります」
美濃部の論はマスコミ等に支持されたかのように見えました。
天皇機関説への巻き返し
しかし、機関説排撃陣営は、機関という言葉は「全体の一部分」であり、いつでも交換可能な意味を持つとの解釈を披露した上で、これは「いかなる場合においても、学問的にも論理的にも、御上(天皇)に対する最大の不敬語」であると反論しています。
美濃部に対する攻撃の火の手は、彼の属する貴族院だけでなく、衆議院でも美濃部の著書は発禁処分にすべきだ、という主張大きくなりました。
「戦線を拡大」を目指す、菊池など軍人出身の議員は徒党を組んで、美濃部に対する「全面戦争」を、幅広い分野で本格的に開始ました。(no3595)
* 写真:菊池武夫
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