樹樹日記

じゅじゅにっき。樹木と野鳥に関する面白い話をご紹介します。

牛ほめ

2008年11月10日 | 木造建築
落語に「牛ほめ」というネタがあります。ある男が小遣いを稼ぐために、叔父さんが新築した家をほめに行き、ついでに牛をほめて落ちがつくというストーリーです。
その中で、ご隠居さんが家のほめ方を伝授するくだりがあります。「家は総体檜造り、表構えが総一面の栂(とが)造り、中に入ると土間が縮緬漆喰,上がり框が三間半節無しの桜、上にあがると畳が備後表の寄り縁、天井が薩摩杉の鶉杢(うずらもく)、奥へ通ると南天の床柱に黒柿の床框(とこがまち)…」。
順番に説明すると、檜は最高級の建築材、栂(とが=ツガ)はマツの仲間で、おそらく門構えなどの材に使われたのでしょう。桜は多分ヤマザクラ、薩摩杉の鶉杢とは美しい木目の出た屋久杉、南天は赤い実の成るナンテン、黒柿は柿の渋で黒い縞模様が入ったカキノキのこと。合計6種類の木材が登場します。

       
              (京都府の有形文化財、旧三上家)

下の写真は、落語に出てくる黒柿の床框(とこがまち)。実家に近い宮津市にある旧三上家のものです。宮津市には母の実家があり、私はこの町で生まれました。今はさびれてしまいましたが、江戸時代は港町として栄えていました。
三上家は回船業や酒造業、糸問屋を営む傍ら、宮津藩の財政や政治にも関わった名家で、その屋敷を京都府が有形文化財として保存しています。「牛ほめ」の主人公になったつもりで、帰省のついでに寄ってきました。

       
          (黒柿の床框。黒い模様に値打ちがある銘木です)

黒光りするケヤキの大黒柱、土間の上に渡した太いマツの梁など、昔ながらの重厚感あふれる造り。また、上で紹介した床框のクロガキとか、下の写真の床柱のカリンとか、和風建築の愛好家なら溜息が出るような銘木があちこちに使われています。

       
            (茶室の床柱はカリンの芯を磨き上げたもの)

       
       (床の間の違い棚は欅の玉杢、床柱は南天ではなく北山杉)

実家の近くにありながら訪れるのは初めてでしたが、予想以上にすごい屋敷でした。もう一度じっくり見学したいです。落語と違って、ほめても誰もお小遣いはくれませんが…。
コメント (2)
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