近所の家の門扉を入ったすぐそばに、庭のというか家のというか、そこの主のような、とにかく大きなザボンの木があった。大人の頭ほどの実が鈴なりに生っていた。「いればお持ち帰りを」と家人と話すたびに勧められたが、どうしていいものか分からず「お気持ちだけ」をもらっていた。収穫後にどうされるかはおせっかいになるので聞いていない。
数年前、その家が代替わりした。昔風の庭には芝生が敷き詰められ自動扉付の大きなガレージが建ち家はリニューアルされ、まるで見違える姿に変わった。それに合わせザボンの姿は見えなくなった。そのせいか新しくなった芝生ガーデンが庭に比べ広々とし明るく感じられる。和から洋への転換か見事だ。
ザボン、初めて出会ったのは小学校の修学旅行、別府で土産に買った「ザボン漬け」だった。土産に買ったことは覚えているが、それがどのような姿や味だったのか、六十数年前のことゆえ定かでないが買ったことは覚えている。それは「初めて自分の小遣いで買った土産」だったからと思う。子どものころ、欲しいものを買い食いできる小遣などもらったこことはなかったことが遠因だろう。
最近、散歩をしていてザボンの大きな実が幾つも生っている木を見つけた。これまで何故気づかなかったのか不思議な気がしている。ぼんやり歩いていたのだろう。久しぶりに見たそれは庭と違い畑のそば、作っている人を見かけたら収穫後の事を訊ねてみよう。面白い話が聞きたい、そう思いながら撮っておいた。