2010年1月9日 中国新聞「広場」掲載
久しぶりに立寄ったJR岩徳線の西岩国駅。昔は町の中心駅として栄えたが、随分前から無人駅に変わった。朝日に照らさされた改札口の影は、人影のない待合室の奥まで長く伸びている。少しばかりやるせない。
その待合室。飲料水と切符の自販機が、それぞれの場所を占めている。ディーゼルカーの接近は電光板の点滅とブザーが教えてくれる。天井のアンティークな照明灯は残されており昔を知る人を安堵させる。
万葉集の地を旅行中の女性が「ローカル線はゆったり、のんびりして気持ちが洗われる」と話した。そう感じてもらえれば、この無人駅も「よかった」という思いになるだろうが、地元の利用者は「ゆっくり、のんびり、少ない便数」はありがたくない。それでも、それに生活をあわせてくれる必要な駅なのだ。
上りのディーゼルカーが着いた。2人降りて1人乗る。1両だが、少し重そうな特有の音を残して次の終点へ向った。国の登録有形文化財の駅舎は80歳、冬の日に映える赤い屋根は、駅と町の変遷をどんな思いで眺めているのだろうか。
(写真:長く伸びた改札口の影と照明灯)