原油タタキ売り、思惑は(あるいは思い違い)

2020-03-24 00:00:13 | マーケティング
コロナ問題による中国の原油需要低下に対応して、サウジを含むOPECが協調減産を呼び掛けたことに対し、ロシアが拒否。このため、減産による価格維持が難しいことになり、逆にサウジが増産を決定。原油価格は暴落を始めた。そもそも60ドル/バレル程度だったWTI原油がNYMEXで20~25ドル/バレルまで下落した。

話を進める前に、バレルの量と世界の原油生産量のこと

*1バレルは約159リッター。ドラム缶が200リッターなので、その8割位の量だ。1バレルは42ガロンと決まっていて、それは元々は木の樽(バレル)に50リッターを積んでテキサスの油田から需要地に運ぶ途中で8リッター位がこぼれていたことによる。
1バレル60ドル、1ドル110円とすると、リッターあたりは42円になる。(60×110÷159)
それにしてはガソリンは高いと思うが、最大要因は各種税金、それと産油国からガソリンスタンドまでの各種運賃と、製油所の精製費、ガソリンスタンドの設備費と人件費と石油会社の必要利益が加算される(東アジア勢の買う原油は少し高いということもある)。もっとも原油と同じように、ガソリンも長期的にはコスト積み上げ価格に収斂するはずだが、短期的には需要供給の交点で決まる。さらに石油製品は差別化できないため、価格弾力性がきわめて高く価格変動が大きい。

*世界の原油生産量だが、短期的には色々なことが起きているし、不正直な国もあるので常に推定値しかないが、日量8500万バレル強と思われる。特にこの数年(トランプ時代)、米国の生産量がシェールオイルにより300万バレル増えたとも言われる。ということで、原油生産量のビッグ3はアメリカ(1300万バレル)、2位サウジ(1200万バレル)、3位ロシア(1100万バレル)、サウジ除きのOPEC(サウジ除き)(2400万バレル)とその他ということになる。

よく原油価格は需給上3%変化すると大きく動くということになるのだが、中国だけのコロナの影響であれば1~2%程度であったものの、増産という逆方向へ走るロシアとサウジによって、供給バランスが崩れたということだろう。さらに欧米でコロナが猛威をふるっている。

そして、この25ドルの価格でコストをまかなえる油田は、陸上にある古い油田しかないと思われる。原油はいつまでもあるわけではなく、現在、世界の40%近くは海底油田から採掘していて、その開発コストは50ドル/バレル程度と言われる。新規開発は海底油田に限られているわけで、新規参入はこの50ドルを市場価格が上回らないと難しい。さらに米国の増産の中心だったシェールオイルも50ドル弱あたりが限界値と言われ、25ドルになれば続かない。ロシアの原油は海底ではないが、内陸からパイプやシベリア鉄道で運ぶので、やはり厳しい。一方で、他のOPEC諸国は海底油田が多いが、サウジとイラクは陸上油田が主流である。

ということになると、このサウジの増産で痛い目を受けているのは、1番が米国、次にロシア、さらに、他の産油国ということになる。恩恵を受けるはずの国は消費国。無論、サウジも高く売れるものを安売りするので大損であるわけで、こういう時に、我慢するべきプレーヤーが冷静になれずに違う方向に進むこともあるわけだ。

ただし、サウジの伝統的政策は「原油の安売り」であった。それには理由があって、大量の原油の地下埋蔵量を誇ってはいるが、多くが重質油であって、有益なガソリンやジェット燃料や軽油といった高価値の製品があまり生産できないという弱みがある。その重質油を高額で売るためには、世界中の軽質油が枯渇してしまえば、残った重質油が高く売れるということになる(と思っている)。

とはいえ、米ロという大国を同時に痛い目に合わそうという今回の野心的なチャレンジがどういうことになるのか、まったく先が読めないわけだ。

一方、中国は、価格暴落とみて、大量の大型タンカー群を中東に向けて発進させたそうだが、しょせんはタンカーや貯蔵タンクには限界があると思われる。

一方、隠れた問題が日本にはあって、今までコツコツと貯め込んだ国家備蓄の原油だが、公表されていないが、おそらく60ドル台で買っていると思われるので、原油価格暴落によって超巨大な隠れ評価損が発生していると思われる(決して、原価から時価への見直しは行わないと思うが)。

資料によれば、国家備蓄量は4954万キロリッターとなっている。換算すると311,607,000バレルである。仮に60ドルが30ドルに下落したとし、為替を1ドル=110円とすると、
 311,607,000×(60-30)×110=約1兆円 ということになる。

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