やっかいな食卓(御木本あかり著 小説)

2022-11-14 11:32:19 | 書評
知人の書いた小説が小学館から出版された。新人の類なのでささやかで目立たない装丁になっている。平台に重ねられるわけではなく最初から棚に並べられるので、やはり背表紙にパンチがあった方がいいかなとは思うが、いまさらだ。



少し前に、別の知人から「おおたさまへ」から始める丁寧な書簡つきで無償で贈られた本の感想を差し置いて、こちらに感想を送るには抵抗感があったが、読んですぐ書くのが書評の鉄則いうこともあって著者を不愉快にさせただろうと思われる一文を送った。

もっとも、シェークスピアだって源氏物語だって気に入らないこともあるのだから、個人的な読者のわがままかもしれない。


大雑把に言うと、本書は冒頭に嫁姑戦争がある。題名通り、料理の上手な姑と料理下手の嫁、そして中立を装う夫という犬も読まないような筋で、結末を心配する。本の厚さからいって、姑殺害計画が立てられ、毒殺成功寸前で不発が続き、最後は家族旅行で福井県の東尋坊に観光に行くというような結末を想像するが、基本的には本書は遵法精神であふれていて、刑事や警官、検視官や消防士は登場しない。

一方、途中で一人の少女が登場する。本作品の登場人物はほとんど全員が欠陥人間だが、その中で、唯一の完璧人間だ。その少女のそれまでの、そしてこれからの人生という縦向きの時間軸と嫁姑関係を中心とする同時代軸が交わることで、限りなく刹那的な安寧な時間が訪れ、登場人物に追い立てられたかのように著者は筆をおくことができる。

もっとも読者にしてもほとんどの人間は欠陥人間のわけで、完璧な少女に共感をもって感情移入したいと思う人は一握りなのかもしれない。もっとも欠陥人間の特徴として、自分こそ完璧人間と思っている人間が多い。

次作は、刑法、民法、そして憲法無視の巨悪がまかり通る悪漢小説を期待したいと思っている。

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