夏らしく幽霊、妖怪の噺。江戸の呉服商、徳三郎夫妻は大変仲の良いことで知られていたが、妻が病に倒れる。江戸中の名医に診てもらったにもかかわらず薬石効かず終に最後の時が来る。妻は夫に対し、後妻は良く尽くしてくれる方にしてほしい、と言い残す。
徳三郎は後妻のことは考えていなかったが、商家なので親戚筋が集まり、店の女中のおすわを後妻に選ぶ。
おすわは良くできた妻になるのだが、そのうち奇妙なことが起こる。夜が更けてくると、屋敷の外でバタバタと戸を叩くような音が聞こえてくる。その後、か細いが遠くに届くような声で「おすわどーん」と声が聞こえる。それがずっと続き、店の者たちは前妻の幽霊と恐れ入り、おすわも気を病んでいく。金メダルを逃した代表選手をSNSでいじめるような感じだ。
そのため、徳三郎は町内の浪人某を助っ人にして幽霊退治を依頼する。何しろ浪人といっても二本差しだ。もっとも既に亡くなった人が幽霊になるのに、幽霊を斬ることができるかははっきりしない。
浪人某は、幽霊を退治してから謝金を受け取ると言ってみたものの、やはり前金で受け取ることにする。
そして、夜分、剣を構えて待っていると、いつものようにパタパタの音の後、しばらくして「おすわどーん」の声が。前金を受け取った以上ひるむわけにいかず、表に出るとそこには屋台の蕎麦屋がいた。「お前が幽霊か」と問うと、「蕎麦屋です」「パタパタは湯を沸かす七輪を団扇で仰ぐ音です」「おすわどーんではなく、おそばうどーんと言っています」と説明する。
これで終わりではない。続きがある。武士某は既に前金を受け取っているので、「聞き違いというわけにはいかないので、お前の首をくれ」と刀に手をかける。無茶な話だ。「私の首は出せませんが息子を身代わりにするのでゆるしてください」と言い蕎麦粉を取り出す。蕎麦屋の粉だから蕎麦粉ということ。「これを手うちになさいませ」とオチになる。
手討ちと手打ちそばを掛けたわけだが、武士某としてはやはり首が欲しいのではないだろうか。
林家正蔵は林家三平の息子で林家こぶ平と名乗っていたが一門を代表する林家正蔵を名乗ってからは、落語に専念するようになったそうだ。なかなか上手い。
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