映画『源氏物語 千年の謎』の謎

2015-06-05 00:00:51 | 映画・演劇・Video
2011年に公開された映画『源氏物語 千年の謎』は、豪華キャストだったのだが、興業としては成功したが映画としては失敗という評価が多かったような気がする。

nurasaki


あらためて観ると、紫式部に中谷美紀、藤原道長に東山紀之、藤壺妃には真木よう子、安倍晴明に篠塚洋介というように一流を並べているのだが、大問題は主演である光源氏。生田斗真とはどうしたことだろうか。

いまさら源氏物語のあらすじをまとめる愚は避けるが、根本的には源氏物語にはいくつかの謎がある。その一つは「なぜ、源氏物語が作られたか」という歴史的な問題。そして文学的問題としては「なぜ、光源氏は果てしない冒険的な女性遍歴を続けるのか」ということ。

本映画は、前者の謎である「なぜ源氏物語は書かれたのか」ということを中心にしているのだが、たとえば丸谷才一の小説「輝く日の宮」では、紫式部の文才が創造意欲を爆発させ、そのため当時貴重品だった原稿用紙を大量に手に入れるため、総理大臣である藤原道長を籠絡して下書き用に政務で使った書類(裏紙利用)と清書用には中国からの輸入品を求めたということになっている。そして、二人は関係あり、と推測している。

この映画の冒頭で、道長は紫式部と強引に関係してしまい、その後、自分の娘が天皇の子供を産むため、天皇がなるべく藤原家にとどまるよう、式部に長い長い恋愛小説を書くように命じる。現代なら無理なお願いは被害者の女性の方から求めるのだが、このあたりの論理性がちょっと弱い。

そして、現実(道長や安倍晴明や紫式部)の世界と虚構(光源氏や藤壺妃や光のガールフレンド群)の世界が同時に進行し、安倍晴明は、虚構の世界にも出没。

生田斗真のような肉食的俳優が主役というのは、文学的研究課題である「光源氏の女性遍歴の謎」というサブテーマからいって違和感があるわけだ。

だいたい定説となっているのは、幼時に生母(桐壺)が亡くなり、「愛情枯渇状態で成人した」ため、特に義母(天皇の後妻)であり生母の生き写しである藤壺妃を中心とした「優しめ系」を好んでいたのだが、藤壺妃と関係した後は、目的達成後のむなしさから、あてもなく危険な遍歴を始めた」ということ。あてもないので物語が長くなっていく。水戸黄門シリーズだ。

となると、生田では、最初のところの「愛に飢えた素朴な青年」というイメージにそぐわないわけだ。では誰がいいのかというと、ちょっと難しい。光源氏は渡来系である天皇家と日本在来種女性との混血であり、その雰囲気がなんとも女性たちには好まれたのだろうから、そういうのがいいのだけど・・

そして本作で最大の活躍をするのが、六条御息所の姫を演じる田中麗奈だろう。自分の容姿にハンディキャップを感じている嫉妬深い女性という役であるのだが、生霊となって光の周りの女優(いや女性)を亡き者にしようと、大暴れする。女優同士が首を絞めたり上に乗って押さえこんだり、プレー中を覘きこんだりして被害者が続出する。見かねた安倍晴明(篠塚洋介)が実世界から厄払いの応援に行くのだが、篠塚の演技では敵わない。


そして千年が経ち、現代日本では皇室内部の愛憎事件を小説化してはいけないことになっているようだ。さらに、最近は、歌舞伎役者に飽きられた女性タレントが道長の子孫であるような名字のタレントに敵意をいだいているようだが、あちこちで騒ぐよりも、黙って妖術を使った方が効果的なのではないだろうか。大成功する呪い方を教えてもいい。


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