まぶた(小川洋子)

2012-08-23 00:00:55 | 書評
突然に読みたくなる作家といえば、最近は小川洋子と吉村昭なのだが、慌てて買ってきた「まぶた(小川洋子)」だが、8作の短編である。多くの作家の例のように、8作の多くが、後に書かれた長編小説のプロットに関係があるというか、試作品のような関係になるのだろう。

mabuta


それで本質的には、彼女の小説は、やたらにリアルな描写がありながら、現実なのか非現実なのかはっきりしない線上を行ったり来たりするわけだ。あるようでないような話。

飛行機で隣り合わせになった青年の話に登場する老婆の思い出話を記述した「飛行機で眠るのは難しい」では、なぜ老婆は青年の口を通して主人公の「私」に語るのか。老婆から直接「私」が聴き取った方が、話は早いのではないだろうか。謎。

身元を偽って怪しい中国野菜を売り歩く「中国野菜の育て方」。これも不思議な書き方だ。

奇妙な一文無しの青年が飼っているハムスターには、まぶたがない。病気で動物病院でまぶたを切り取ったからだ。「まぶた」。

その他、妙な話が次々に書きこまれていくのだが、実は最大の問題は、この小説を2年ほど前に読んだことがあったこと。さらにほとんどの筋書きを忘れてしまっていたこと。やはり本は二回は再読しなければならないのかもしれない。