ついにきた、大津波

2008-10-08 00:00:00 | 企業抗争
サブプライム問題の超巨大地震は、第一段階の「金融機関への公的資金投入」で各国が右往左往しているうちに、ついに日本にも津波がきたようだ。現象としては、銀行融資の縮小である。まずは中川財務相兼金融担当相の発言から。

金融相、中小企業庁と連携し対応 貸し渋りを懸念

中川昭一財務相兼金融担当相は5日のフジテレビなどの番組で、世界的な金融不安の影響に関連し「メガバンクが地方の中小企業から(融資を)一斉に引き揚げており、要は貸し渋りだ」と懸念を表明した。役割の異なる金融庁と中小企業庁とがチームを組んで全国を回り、中小企業融資の実態把握を急ぐ方針を示した。

中川氏は「(金融機関の)リスク回避を誘導するような金融監督行政では駄目だ」と指摘した。

米国で10日に開催される先進7カ国財務相・中央銀行総裁会議(G7)に関しては「この事態に対処する責任は日本も持っている」と欧米との連携姿勢を強調。具体的な協調の在り方は「今週どういう動きが世界中で起こるかを冷静に見たい」と述べるにとどまった。〔共同〕(2008年10月5日16:16)


最近、地方の中小企業の経営者から聞いた話だが、信用金庫から「貸し止め」の仕打ちを受けたそうである。

「貸し止め」というのは「貸し渋り」と「貸し剥がし」の中間のような段階である。ようするに、運転資金であっても「今後、おカネ貸さないからね。」という通知のこと。

信用金庫側の言い分は、「貸したくても、メガバンクから借りていた資金を引き上げられたから」ということらしい。町工場に勤める人たちのクリスマスケーキ代になる予定だった12月のボーナスが、ウォール街のモルガンスタンレーの金融工学博士たちの七面鳥とシャンパン代になったわけだ(と書くと、すいぶんヒネクレタ書き方になってしまうが)。

中川大臣の談は、「メガバンクが地方の中小企業から資金を引き上げている」となっているが、事態はもっと複雑で、メガバンクは信金や地銀に融資し、信金や地銀が地方企業に再融資するような構造になっていたということなのだろう。消費者金融(サラ金)などもそうなのだろうか。そうなると、もともとメガバンクがリスクマネーをマネーロンダリングするためのシステムが信金・地銀・サラ金ということになっていたのだろうか。

となると、借り手の企業と大元の貸し手の間には直接のコネクションがないため、窓口では「貸せない」「金がない」「約束が違う」「貸す、と言った覚えがない」とか、まったく経済活動とは関係ない「不毛な言い合い」となり、「黒字倒産」ということになる。特に業種の特徴として資金回転期間の長い不動産業とか醸造業とか痛いだろう(他にも構造的に借入金の大きい業種はあるが省略)。

さらに、地方企業の国際化の裏側にいたのは、地銀だけではなく外銀の存在が大きかったのだが、外銀は全滅状態。地銀担当者は、「プロジェクトファイナンスなんて初耳のコトバだ」とか言っているわけだ。

そして事態は、「貸し渋り」から「貸し止め」に至り、次は「貸し剥がし」に進むわけだ。

「貸し渋り」の場合は、要するに山のような隷属的条件を呑み、借りた金の半分くらいを預金として担保に積むと、何とかなることもあるのだが、「貸し止め」は、何が何でも1円も貸しません、交渉の余地ありません、ということ。企業としては、日々の運転資金のように変動が多い資金は、なるべく固定化したくないのだが、短期資金のあてにしていた地銀・信金がシャッターの向こうに逃げてしまうと途方に暮れてしまう。だからといって、「いつでも、必要な時に言って下さい」と言っていたじゃないか、と詰め寄っても、「証拠がない」ということになる。

つまり、「貸し渋り」は、一般の契約社会では「まだ合法的範疇に近い」領域で、「貸し止め」は、不公正に近い範疇である。口頭で安心させ、いざとなると「証拠がない」というのは、「口頭約束でも契約成立」という民法に違反しているが、証明できないということ(もちろん、口約束でも、こっそり録音しておけば有効を証明しやすい)。

しかし、「貸し剥がし」となると、この行為はクロのケースが多い。すでに貸し付けてある金額を、返済期日でもないのに回収してしまうというのだから、簡単ではない。一般には、若干の問題行動が伴う。

1億円の融資を2本出している企業に、「二つまとめると、金利を優遇しますよ」とか持ちかけ、一旦、返済させた上で、「行内のルールが変わって、貸せなくなった」とか言い出すわけだ。もっと凄いのは、融資先の経理担当者と組んで資金を吸い上げたり、傾きかけた二つの中小企業間で資金のやりとりをし、片方の会社に資金を集めた上、骸骨化した方の会社を計画倒産させたりする。こういうのも、特殊技術が必要な世界だろう。

ということで、今後、最も必要になるのは「首都銀行東京」ということになるのだが、「最も必要な物は、最も必要な時には存在しない」というマーフィーの法則が証明されることになるのだろう。あるいは、出番を間違え早出してしまい、印籠を取り出す前に斬られてしまった水戸黄門みたいなものだろうか。