金門島流離譚(船戸与一)

2007-07-08 00:00:16 | 書評
569a095b.jpg小説の華の一つが恋愛小説だとすると、もう一つの対極は冒険小説。というのは単に個人的意見だ。恋愛小説と冒険小説を組み合わせると、007シリーズになるのだが、それはなかなか成立の難しいところがある。冒険小説の親戚には推理小説というのがあり、これも推理小説を冒険小説を組み合わせるとうまくいかないことが多い。それは、読者の中には、冒険小説と推理小説を同格に考えている人が少なく、冒険小説派と推理小説派が分かれているからだろう。

そして、冒険小説の日本での一人者の一人である船戸与一が描く、「金門島流離譚」は、舞台は金門島。場所は台湾海峡の西側。つまり中国本土のアモイから僅か2キロの場所にある人口7万人の小島なのだが、そこは台湾の実効支配下にある。

なぜ、そんな中国に近いところに台湾があるのか、というのには、語ると長い話になるのだろうが、もともと台湾を日本が支配していた頃に金門島も日本支配下にあったことかららしい。そして国共内戦の後、外省人として国民党が島に渡ってきて台湾人と武力抗争を行い、多数の死者を出す。その後、台湾はこの島を中国に対する不沈空母化してしまう。要塞都市である。

従って、中台全面戦争になれば、この浮沈空母化した島で大戦争が起きるのは目に見えている。

569a095b.jpgそして、ストーリーは主人公藤堂が、由あって金門島に住み着いて商社事業を展開。ふとしたことで彼の周りに次々に奇妙な登場人物が登場し、ほぼ全員が次々に殺されていくことになる。約半ダース以上の死者が出る。そして、こんな終わり方でいいのだろうか、という思いもかけないエンディングが用意されている。冒険小説では掟破りとなる展開だ。

主人公藤堂は、警察に逮捕される。

そんなイージーなフィナーレでいいなら、私にだって冒険小説が書けそうだ。警察から一線下がったところに倫理観をおき、なるべくアウトローの世界で完結させるのが冒険小説の定番フィナーレと思っていたが、これでは恋愛小説のエンディングに産婦人科での出産シーンを持ってくるようなものかもしれない。要するに、いつもの船戸小説群からすると、「話が短い」ということかもしれない。

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