藤堂高虎家訓200箇条(7)

2006-04-22 08:33:35 | 藤堂高虎家訓200箇条

藤堂高虎遺訓集も全200条の中盤(61条-70条)にさしかかっている。

武士としての有様が中心だった前半に比べ、日常的な話題が増えてくる。ある意味で、口うるさいオヤジのモデルともいえるし、自分のオヤジではないことを感謝すべきか・・


第61条 大酒すべからす無是非座敷にて大酒いたす共深く諸事に可慎人のうへにても酔の紛に言事ありとも互につのらさる内に挨拶して退出すべし

大酒を飲むべからず。どうしても座敷で大酒を飲む場合でも、諸事に慎むべきである。寄った勢いで口論するとしても、お互いに論をつのらせる前に挨拶して退出すべきである。

まったく、そのとおり。今も昔もだ。ところで高虎は酒飲みだったのだろうか?たぶん、あまり飲まなかったのではないだろうか。あまりにも冷静なご意見だ。(大酒はダメだが、小酒ならいいようだ。たぶん中酒でもいいのだろう・・)


第62条 惣別傍輩つき合の時物事を大耳に可聞軽口たてあしくあやまり多かるべし

すべて同業との付き合いの時、物事はおおまかに聞くこと。軽口を言うのは悪い。誤りが多いものだ。

談合業者の密談のような話か・・。密談の席で軽口をたたくと本気にされたりする。というのは冗談として、朝鮮出兵の時など、本拠地の福岡名護屋城で全国の大名同士が集まって私的な懇親を深めていたはずだ。まあ、他人の悪口の聞き方についての心得というものなのだろう。


第63条 侍たる者ハ刀脇指可嗜拵ハ見苦しくともねたば成共よくあハせ可指刃なとひけさびくさりたる大小は其人の心見かぎるものなり

侍たるものは、刀脇差に嗜みを持つべきだ。あつらえが見苦しくても、鈍い刃であっても、よく研いで指すべきだ。刃などがくもり、錆び腐った大小は、その人の心持を見限るものである。

刀をきちんと研いでおけば外観が粗末でも構わないと言っている。刀剣を売り飛ばし、中身が竹光などとんでもないわけだ。切腹を言い渡されても、竹光で腹を切るのは、格別痛そうだ。


第64条 冬なり共薄着を好へし厚着を好めばくせになり俄にうす着の時かじける物也不断火にあたりつくへからす但病人老人ハ格別なり

冬であっても薄着を好むべし。厚着を好めば癖になり、にわかに薄着になった時、かじかむものである。普段から火にあたらないようにする。ただし、病人と老人は別である。

ウォームビズの起源は、高虎にあり。ただし、言い出しっぺの大臣が無理をして、肺炎になって入院しても失笑されるからご注意を・・老人は格別なりだから


第65条 火事抔に出る共心得有べし火事に斗心を付度々行当る儀もあり子細ハ我家に火を掛切出る事有左様の時思ひ不寄手負死人有之能心を可附

火事などで外に出るときにも心得がある。火事に心を取られると、しばしば行詰ることがある。つまり自分の家の火を消さずに出ることがある。そういう時、思いもよらず手負いや死人が出る。よく気をつけるべきだ。

まことにありがちな話ではある。が、「念入りなご忠告、ありがとうさま」ということか。近所に来たパトカーの様子を見に行って、その隙に空き巣に入られたようなものだ。


第66条 旅立に船渡の乗合馬次にて心を可付泊泊にて火事抔の時出る道筋可見及なり又不用心なる宿と思はは可心掛有明置べし

旅行の時、船渡しの乗合や馬次に気をつけるべきだ。宿泊地ごとに火事などの時、逃げる道筋を見届けておくこと。また不用心な宿だと思ったら心がけて行灯を置いておくこと。

この家訓を読んでおけば、多くのホテル火災での犠牲者はずっと少なくなっただろう。これから出張には懐中電灯持参のこと。若干、気になるのは、船や馬に乗るときに注意すべきというのは、事故に注意すべきなのか、スリに注意すべきなのか、あるいは乗務員に注意すべきなのかよくわからない。ツアーのガイドさんもできる。(生涯の彼の移動距離は大変なものなのだ)


第67条 不断食物ゑよう好みすべからすくせに成也急成時節難成常に善悪を不嫌麁菜給つくへし急成時の嗜なり

普段から食物のぜいたくや好き嫌いをしない。癖になる。急な事態に対応できない。常に善悪を言わず、粗菜を食べるべき。急な時の嗜みである。

偏食問題は今も昔もだ。学校給食の時に直さないと、将来、老人ホームに入った時に苦労する。


第68条 不断少の事に薬好み并持薬気附の類何も不可好

普段、少々の事で薬を好み、持ち薬や気付けの類も好んではいけない。

胃腸薬やビタミン、鎮痛剤、睡眠誘導薬、強精剤など愛好している人は現代では多い。渇!


第69条 人に少の物にても必無心不可申心根知るなり可慎

少しのことでも、絶対に他人に無心をしてはいけない。心根が知られてしまうから慎むべきだ。

この条の特徴は、「必無心不可」と「必」という字が入っていることだ。絶対に無心はいけない。ということだ。ただし、借金は無心ではないからいいのだろう。

第70条 身代恰好に応し不入物も可嗜不及書付也

収入や格好に応じて不要のものでも嗜むべきだ。書き付けるには及ばないが。

書き付けるに及ばないというのは、具体的な事案のことだろう。銀行員のゴルフクラブとか、ブランドネクタイとか社長専用車とか現代でも色々あるが、人間は、身代格好を超えて「豪華絢爛主義」に陥りやすいものだ。そうなるとカネに詰り、「無心」に走り、胃が痛くなり、「胃腸薬を持ち歩く」ことになる。

続く。