春名幹男氏講演会に行く

2006-04-27 06:25:00 | 市民A
858ececa.jpg先週、月刊誌「フォーサイト(新潮社)」の読者を対象とした講演会があった。講師は、共同通信特別編集委員の春名幹男氏。1946年生まれなので、今年60才。2004年日本記者クラブ賞。国際ジャーナリストとして諜報活動に詳しいとのこと。フォーサイト誌の中でも人気コラムニストである。講演会場は銀座ヤマハホール。

ところで、一般に、雑誌とその読者層のことを考えてみる。もし、ある分野のことに関して雑誌を読んだときに、その雑誌の内容がまったく理解できなかったらどうだろう(理解度0%)。入門書のつもりが難解専門書だったような場合だ。たぶん、その雑誌の次の号を読もうとは思わないだろう。もっと易しい雑誌を選ぶだろう。また逆に、読んだ内容が100%完全に理解できたらどうだろう。やはり次の号は読まないだろう。全部知っている知識について読む人もいない。おそらく、50%くらいは知っているが50%程度の新しい話が書かれているというようなものが好まれるのではないだろうか。つまり、雑誌のレベルと読者のレベルはリンクしているということだろう。

そういう意味でフォーサイト読者に対しての講演会なのだから、フォーサイトの記事を少し越えるようなレベルであるべきなのだろうが、聞いた内容は、ほぼ同レベル、あるいはそれ以下であったのではないだろうか。あまり、体系的に語られたのではなく、原稿なしの雑談風だったのも一因だったのかもしれない。ということで、その講演を紹介したのではちょっと面白くないかもしれないがご容赦を。


さて、最初の話題は、「日本人スパイの必要性」である。ご存知のように、日本には本格的なスパイはいない。公安警察というのはあるが、実際は「陰険な調査」が主たる公務で、別に海外で、「破壊活動」とか「暗殺」とか「クーデター計画」とか「各種違法行為」を任務にしているわけでもない。また、諜報工作を始めれば、海外の諜報組織からは逆に攻撃されたり、カウンタースパイに誘われたりするのだが、とても対応できそうもない。外国では領事館、大使館の電信官というのは普通、スパイ専用の部署と言われ、元国鉄マンが外務省にトラバーユして上海で「つつもたせ」に引っかかって、自爆することなど考えられないそうだ。

それなのに、日本では唐突にスパイ必要論が登場するそうだ。防衛庁や外務省からは英国M16をモデルとした組織作りが提案されたが、まあ、実現のメドはないそうだ。日本の場合はどうしても戦前の憲兵、特高が残した「負の精神遺産」が強烈で、もはや本格的スパイ養成はやめた方がいいというご意見だ。

さらに米国がイラク戦争で失敗した原因の一つは、情報機関が伝えた誤報にあるのだが、米国には16もの情報機関と10万人を超える人間、推定430億ドルを超える年間予算があるのに、あの程度のズサンな状態であるそうで、「情報を集めることより、情報を分析することの方が重要」ということだ。


二つ目の話題は、資源問題。中国側が尖閣諸島にこだわるのは1968年のECAFEレポートで東シナ海の尖閣諸島付近にガス田・油田が確認されたこと以来だそうだ。そして、どうも中国の経済水域内では、大した量がないらしい、ということで、未調査の日本側の埋蔵量に目をつけたのだろうということらしい。「隣の芝生は青く見える」ということだ。日本はまだ試掘していないので、誰もその有望性を語ることはできないわけだ。同じように、イラク、アゼルバイジャン、カザフスタンあたりの米国にとっての重要性はエネルギー問題に尽きるそうである。


三つ目のテーマはイラン問題を中心とした米軍の展開について。あまり時間をかけた話ではないが、春名氏の読みでは、米国は、イランを攻撃するだろうということだ。すでに準備は始まっていて、あとは大統領選との時間の問題ということらしい。何しろ、イランについての情報を米国はあまり持っていないので、情報収集を急いでいる段階との事だ。となれば、残る枢軸国(アクシス オブ エビル)は1つとなる。

今や、米国国防省は、上の方はMBAばかりになっているそうだ。(パウエル氏もMBAだったそうだ)。ラムズフェルド戦略は、国防費の人件費部分を抑えるためのリストラ手法であり、沖縄を中心とした米軍再編問題も、彼が効率化を打ち出した経費削減案に起因するそうである。一方、日本の認識は、まるで公共事業のような考え方だろうといわれていた。

講演会は、かくのごとく常識的に終わり、多くの聴衆の期待していた「スパイの行う非合法活動の紹介」はまるで、一つもなかったのだが、食傷状態の方々が帰り際に、一階のヤマハ銀座店DVDコーナーで「007 製作40周年記念限定BOX」41,790円也を購入して帰ったかどうかは定かではないのだ。