藤堂高虎家訓200箇条(6)

2006-04-16 00:00:00 | 藤堂高虎家訓200箇条

家訓200ヵ条解題も1/4を超えた。50ヵ条までは、体系的に、殿様向け、家臣向け、家来向けとセグメント分けしていたが、徐々にルーズになる。あれこれ思いつきながら進む。まあ、それの方が面白いが・・

第51条 少事ハ大事大事ハ少事と心得へし大事の時ハ一門知音中打寄談合するにより大事には不成なり少事ハ大事と言は一言の儀にて打はたす也然ルゆへ少事は大事と可慎

小事は大事であり、大事は小事であると心得るべきだ。大事の時は、親戚一門が寄り合って相談するから大事にはならない。小事は大事、というのは、一言で済ませるからである。だから小事は大事と慎むべきである。

デモクラシーの起源もそうだ。重要なことは衆議する。高虎は藤堂藩が愚者の集団になるのではないかと心配していたのだろう。心配性。


第52条 かりそめに寄合共座敷の衆の縁者親類を思ひ出し咄にも気を付害にならさる事のみ可咄

かりそめに寄り集まっても、座敷にいる人々の縁者や親戚のことを思い出して、話題にも気をつけ、害にならない事だけを話すべきだ。

宗教の話とか、婚期が遅れた娘の話や、子供に恵まれない話とか、いわゆる「場のタブー」を覚えておけということか。新入社員の宴会マナーのような話。


第53条 窮屈成所を好み楽成所を嫌ふべし

窮屈なところを好んで、楽なところを嫌うべきだ。

この53条には、理由が書かれていない。含みが多くて解釈は難しい。文字通りとらえると、ネズミや犬の世界になるのだが、仕事の話だろう。窮屈なサラリーマン生活がいやだと言って、自由生活に逃れてはいけない、というくらいに考えておく。


第54条 我役目ハ武芸也作法勤ハ身の楽をも可致楽とて人嘲事ハ可慎

自分の役目は武芸である。作法や勤めは体が楽である。楽だからといって、他人を嘲笑うことは慎むべきである。

54条は53条とは筋が違っている。武士はあくまでも武芸、つまり剣道や弓や鉄砲といった「戦闘士」であることが基本であって、実際にはデスクワークばかりになったからといって、そういったガテン系の人たちの所作を笑ってはいけない、ということだろう。そういう謙虚な気持ちは、幕府が永続する中で武士階級の中でも薄れていくだろうと、予感していたわけだ。


第55条 傍輩衆おとつるる時ハ何様の事あり共逢へきなり心易衆におゐてハ急用候間調可申と断急用可達なり

友達衆が訪れた場合は、どんなことをしても会うべきである。心易い人たちならば、急用があるので、と断り、急用を済ますべきである。

毎日、会っている近くの人たちには、当座の不義理をしても、たまにくる遠方の友を優先すべきだ、というごく常識的な意見であるが、実際は、遠くの友より、近くの不義理先の方が身分が上だったりする。そして、友がたくさんいると、毎日、遠方より違う友が訪問して、毎日、不義理が続くことになったりするものだ。


第56条 主人被召候時朝夕給かけ候共箸を置可出何様の急成御用もしれず食給仕廻出る事無忠節たるへし

主人がお呼びの時は、朝夕食べかけの時でも箸を置いて出勤すべきだ。どんな急ぎの用かも知れず、食べ終わってから出かけるのは忠節のないことである。

高虎は、ずいぶん朝食にこだわる。180cm超の大柄だったせいか、「メシ抜き」は天下の一大事と思っていたのかもしれない。ところで、以前、あるヤクザの中堅に聞いた話だが、「クルマのガソリンは、いつも満タンにしておかなければならない」ということだった。親分から呼び出しがかかった時、他の子分たちより先に駆けつけなければならないので、呼び出しがあってからガソリンスタンドに行くようではダメだ、ということだそうだ。


第57条 毎朝早天に起き先髪を結ひ食を早く給可申事奉公人ハ何様の事にはしり出る事も有へし共嗜也

毎朝、早く起き、まず髪を結って、食事を早く食べるべきだ。奉公人は、どんな事で走り出ることになるかもしれないから、そのための嗜みである。

またしても朝食にこだわる。現代人は、朝のたしなみには個人差があるが、同じようなものか。ただし、高虎式だとトイレはいつ行くのだろう。便秘症だったのか?


第58条 夏冬共に不断帯堅くすべし急にはしる時尻をつまけ刀脇指うこかさる程に常々帯堅くむすび付べし常に帯ゆるく尻げたに掛ケ仕付れハ急にはしる時すね腹痛み出る先にて役に不立物也

夏冬とも普段から、帯は堅く結ぶべきだ。急に走るとき、尻をはしょり、刀・脇差の動かないように常々帯は固く結び付けるべきだ。常に緩く下の方に締めていると、急に走る時、すねや腹が痛み、出た先で役にたたないものだ。

三流私立高校の校則のようなものだ。子孫の大部分は守らなかったような気がする。急に二本差しで走り出すことなど、考えられなかっただろう。それとも抜き打ちの緊急訓練でもしていたか・・


第59条 急に走り出る時三尺手拭はなすべからす大小指様有之刀をぬく共鞘落さる様に心得有事なり

急に走り出すときに、三尺手ぬぐいを手から離してはいけない。刀類は差し様がある。刀を抜いても鞘を落とさないような心得があるからだ。

まるで陸上部のコーチだ。今一つ三尺(90cm)手ぬぐいの効用が見えないが、酔っ払って人を殴るときには、自分の手を痛めないように拳にハンカチを巻いてからパンチを出せというようなことかな。


第60条 家来手討にするハひが事也理を以言付仕廻ふ事本意なり又一僕仕ふ者ハ格別なり能分別して仕そこなハざる様肝要なり

家来を、手討ちにするのは、心得違いである。わけを言って言いつけるのが本意である。また、召使が一人だけの者は、格別よく分別して、しくじらないようにするのが肝要である。

時々、こういう怖い家訓が散りばめられる。やたらと、家臣を切り殺していたら、みんな逃げ出す。まして、召使が一人しかいない者が、その召使を斬ると、自分の髪も結えなくなるから注意が必要だ。

あいかわらず、細かな話が多いが、同じような話が続くのは、若干、認知症が出ているのだろうか。70歳頃の口述筆記である。それより、やはり高虎は、単に口うるさいオヤジだったということなのだろうか。

続く