ピストンが焼き付くと?
昔のマン島レースでは、2サイクルエンジンのレーサーは良く焼き付いたそうです。通常のサーキットより遥かに長いストレートをずっと全開で走っていって、ピストンとシリンダーがキンキンに熱くなっているときに、コーナーが目の前に迫ってきてアクセルを戻してシリンダーが先に冷えると・・・
ローエッキスピストンができる前はすぐに焼き付いたのだろうな。
2サイクルエンジンのこのような状況でのピストン焼き付きは急激ですから、クラッチをすぐに握らないと悪夢の後輪ロックです。
2サイクルエンジンのスクーターではオイルを切らすと必ずピストンは焼き付きます。2サイクルエンジンのクランク、コンロッドの両端部はニードルベアリングやボールベアリングで支えられていますので、ガソリンに混ぜられたオイルによるという劣悪な潤滑環境下(意外なほどオイルでウエッティです)でも正常な運転が行われますが、シリンダーとピストンはガソリンに洗われ高熱に晒されているので、オイルの供給が止まるとすぐに焼き付いてしまいます。
運がよくて、たまたま低回転で焼き付いたとすると、冷えるとまた始動が可能になることも多いのです。オイルポンプのエア抜きなどして、的確な対処をするとオーバーホールしなくても乗り続けることができる事もあり得ます。不運なことに高回転時に起ったり、冷やしてまた乗れるからといって、そのまま乗り続けたりすると、焼きついた事によって生じた金属粉がベアリングに噛み込まれ、修理代が莫大になります。
ハーレーのピストン焼き付き?
ショベル以前のハーレーのエンジンを分解してシリンダーを見てみると、ほとんどがピストンの側圧を受ける部分には、ピストンの摺動どおりの縦キズが刻まれています。それに較べて、側圧を受けない部分はクロスハッチが新品のように残っています。これはある意味ロングストロークエンジンの宿命と言えて、エンジン高をできるだけ低くしたいので、コンロッドの長さが理想より短いために側圧が大きくなっているのです。
エボ以降は新しい設計のピストンと薄肉ライナー/アルミシリンダーのおかげでシリンダーの大きな傷跡は解消されています。更に最近のピストンのスカート部にはモリブデン溶射によるコーティングが施されていて極限状況にも対処されています。
クロスハッチの摩滅により、ピストンの潤滑が不足してピストンが焼きつくかという疑問に対しては、ほかの状況もあわせて考える必要があり、これを考えるとすごく長くなりそうなので一つだけにしておきます。
ショベル以前では、側圧、アルミピストン/鉄シリンダーの膨張率、それにクロスハッチの摩滅の諸条件を懸案しますと、焼き付き以前にオーバーヒートの兆候が出てくるのではないかと思われます。潤滑不足による摩擦熱の増大で、エンジンの回転が重くなりパワーダウンの症状ですね。
少なくとも2サイクルエンジンのように、カキーンと後輪がロックする事態にはならないでしょう。
エンジンが爆発!コンロッドには4000G!!
ドラッグレース用にK社の水冷4気筒1000ccのエンジンを目一杯レーシングチューンしたのです。(15年くらい前)スイングアームも長くして固定し、ウイリーバーなども付け結構本格的に作って、エンジンもパワーが出ていました。ドラッグレーサーを慣らし運転する場所はないので、本番の1発目は回転を抑えて、2レース目を許容回転まで回したらエンジンが爆発してしまいました。正確に言うと爆発したわけではないのですが、結果は同じようなものです。クランクケースに大穴があき、得体の知れない金属の塊が散らばっていて悲惨でしたね~。
これをもう1度同じことをやったのです。初回はコンロッドを軽量化して、4本を1/100グラムの誤差で同じ重さに揃え鏡面仕上げをするなど(4本仕上げるのに1週間!)して使ったのですが、2回目はもう元気がなく有名なH型のコンロッドを使いました。
2回目も初回とまるきり同じで、まるでデジャブですよ。
クランクは鍛造一体ですから、ジャーナルもクランクピンもベアリングメタルの軸受けです。日本製の4気筒エンジンもスズキ刀1100あたりの空冷エンジンまでは組み立て式クランクでボールベアリングやローラーベアリングを使っていましたが、水冷になってからは一体式になっています。
2回のエンジン爆発?は壊れ方も同じでコンロッドのビッグエンドの焼き付きです。コンロッドの上はピストンの動きに同調して上下運動、下はクランクに同調して回転運動していたのが、ビッグエンドが焼き付くと、ピストンも一緒にクランクと同じ回転運動するしかなくなりますので、コンロッドがどこかで千切れます。千切れた残りのコンロッドがクランクに付いたままクランクケースを掻き回しますので、ガラクタの山を築いてしまいます。
仮にストローク60mm 回転数12000rpmだとすると0.06×2×12000/60=24m/秒と平均ピストンスピードがでますが、上死点と下死点の中間はこれの約1.4倍の33.6m/秒ですから最大速度120.96km/時になります。大した事はないスピードと思うかもしれませんが、6cmの間を0⇔120km/h⇔0を繰り返しています。そうすると約4000Gも加速度が掛かる事になり、コンロッドのビッグエンドは変形し、オイルクリアランスは無くなり焼き付いてしまうのでした。
メタルのオイルクリアランスも慎重に調整したはずなのに、12000rpmはさほど高回転と思えないのに何故ビッグエンドが焼きついたかは、多分コンロッドの長さにあると思います。コンロッドが短すぎるとピストンの側圧が大きいと前述しましたが、それ故コンロッドに掛かる荷重も大きくなります。
エンジンのレースチューニングもパワーを出すだけなら可能な範囲は大きいのですが、壊さないで持続させるのには困難だという見本でした。
まだまだ続きます。
昔のマン島レースでは、2サイクルエンジンのレーサーは良く焼き付いたそうです。通常のサーキットより遥かに長いストレートをずっと全開で走っていって、ピストンとシリンダーがキンキンに熱くなっているときに、コーナーが目の前に迫ってきてアクセルを戻してシリンダーが先に冷えると・・・
ローエッキスピストンができる前はすぐに焼き付いたのだろうな。
2サイクルエンジンのこのような状況でのピストン焼き付きは急激ですから、クラッチをすぐに握らないと悪夢の後輪ロックです。
2サイクルエンジンのスクーターではオイルを切らすと必ずピストンは焼き付きます。2サイクルエンジンのクランク、コンロッドの両端部はニードルベアリングやボールベアリングで支えられていますので、ガソリンに混ぜられたオイルによるという劣悪な潤滑環境下(意外なほどオイルでウエッティです)でも正常な運転が行われますが、シリンダーとピストンはガソリンに洗われ高熱に晒されているので、オイルの供給が止まるとすぐに焼き付いてしまいます。
運がよくて、たまたま低回転で焼き付いたとすると、冷えるとまた始動が可能になることも多いのです。オイルポンプのエア抜きなどして、的確な対処をするとオーバーホールしなくても乗り続けることができる事もあり得ます。不運なことに高回転時に起ったり、冷やしてまた乗れるからといって、そのまま乗り続けたりすると、焼きついた事によって生じた金属粉がベアリングに噛み込まれ、修理代が莫大になります。
ハーレーのピストン焼き付き?
ショベル以前のハーレーのエンジンを分解してシリンダーを見てみると、ほとんどがピストンの側圧を受ける部分には、ピストンの摺動どおりの縦キズが刻まれています。それに較べて、側圧を受けない部分はクロスハッチが新品のように残っています。これはある意味ロングストロークエンジンの宿命と言えて、エンジン高をできるだけ低くしたいので、コンロッドの長さが理想より短いために側圧が大きくなっているのです。
エボ以降は新しい設計のピストンと薄肉ライナー/アルミシリンダーのおかげでシリンダーの大きな傷跡は解消されています。更に最近のピストンのスカート部にはモリブデン溶射によるコーティングが施されていて極限状況にも対処されています。
クロスハッチの摩滅により、ピストンの潤滑が不足してピストンが焼きつくかという疑問に対しては、ほかの状況もあわせて考える必要があり、これを考えるとすごく長くなりそうなので一つだけにしておきます。
ショベル以前では、側圧、アルミピストン/鉄シリンダーの膨張率、それにクロスハッチの摩滅の諸条件を懸案しますと、焼き付き以前にオーバーヒートの兆候が出てくるのではないかと思われます。潤滑不足による摩擦熱の増大で、エンジンの回転が重くなりパワーダウンの症状ですね。
少なくとも2サイクルエンジンのように、カキーンと後輪がロックする事態にはならないでしょう。
エンジンが爆発!コンロッドには4000G!!
ドラッグレース用にK社の水冷4気筒1000ccのエンジンを目一杯レーシングチューンしたのです。(15年くらい前)スイングアームも長くして固定し、ウイリーバーなども付け結構本格的に作って、エンジンもパワーが出ていました。ドラッグレーサーを慣らし運転する場所はないので、本番の1発目は回転を抑えて、2レース目を許容回転まで回したらエンジンが爆発してしまいました。正確に言うと爆発したわけではないのですが、結果は同じようなものです。クランクケースに大穴があき、得体の知れない金属の塊が散らばっていて悲惨でしたね~。
これをもう1度同じことをやったのです。初回はコンロッドを軽量化して、4本を1/100グラムの誤差で同じ重さに揃え鏡面仕上げをするなど(4本仕上げるのに1週間!)して使ったのですが、2回目はもう元気がなく有名なH型のコンロッドを使いました。
2回目も初回とまるきり同じで、まるでデジャブですよ。
クランクは鍛造一体ですから、ジャーナルもクランクピンもベアリングメタルの軸受けです。日本製の4気筒エンジンもスズキ刀1100あたりの空冷エンジンまでは組み立て式クランクでボールベアリングやローラーベアリングを使っていましたが、水冷になってからは一体式になっています。
2回のエンジン爆発?は壊れ方も同じでコンロッドのビッグエンドの焼き付きです。コンロッドの上はピストンの動きに同調して上下運動、下はクランクに同調して回転運動していたのが、ビッグエンドが焼き付くと、ピストンも一緒にクランクと同じ回転運動するしかなくなりますので、コンロッドがどこかで千切れます。千切れた残りのコンロッドがクランクに付いたままクランクケースを掻き回しますので、ガラクタの山を築いてしまいます。
仮にストローク60mm 回転数12000rpmだとすると0.06×2×12000/60=24m/秒と平均ピストンスピードがでますが、上死点と下死点の中間はこれの約1.4倍の33.6m/秒ですから最大速度120.96km/時になります。大した事はないスピードと思うかもしれませんが、6cmの間を0⇔120km/h⇔0を繰り返しています。そうすると約4000Gも加速度が掛かる事になり、コンロッドのビッグエンドは変形し、オイルクリアランスは無くなり焼き付いてしまうのでした。
メタルのオイルクリアランスも慎重に調整したはずなのに、12000rpmはさほど高回転と思えないのに何故ビッグエンドが焼きついたかは、多分コンロッドの長さにあると思います。コンロッドが短すぎるとピストンの側圧が大きいと前述しましたが、それ故コンロッドに掛かる荷重も大きくなります。
エンジンのレースチューニングもパワーを出すだけなら可能な範囲は大きいのですが、壊さないで持続させるのには困難だという見本でした。
まだまだ続きます。
自分でも、長くなってしまいビックリしています。
セラミックエンジンは多分モノにはなりません。
これを掘り下げていくと、あまりにも専門的になってしまい地雷を踏みそうな予感がします。
でも1980年代にポリアミド系のエンジニアプラスチックでできたエンジンがあったそうです。これは成功したようですがその後はわかりません。
オイル、コーティング、ピストンスピードまで話を持って行って頂ける辺り、流石ですね。ありがとうございます。
以前、セラミック系の材質も話題になった事があったと思うのですが、やはり開発は難しかったのですかね~?
,申し訳ないです。
しか~しこんなおもろい授業もないのでよろしくお願いします。