樹樹日記

じゅじゅにっき。樹木と野鳥に関する面白い話をご紹介します。

電気よりもツルを選んだ国民

2019年12月12日 | 野鳥
国の豊かさをGDP(国内総生産)ではなく、GNH(国民総幸福量)で表そうと提唱しているのはヒマラヤ山脈にある人口76万人の小国・ブータン。
この国は現在、グローバルな資本主義を拒絶し、観光客も制限するなど、一種の鎖国状態を保っています。それによって固有の伝統や文化、自然環境、社会的な基盤を守ろうとしているのです。
そのブータンのフォプジカという村では、米や麦が栽培できないのでヒツジを飼ったりジャガイモを栽培して生活しています。電気も通じていません。
以前この村にも電気を引こうという構想が持ち上がりましたが、結局実現しませんでした。その経緯について、『もう一つの日本 失われた「心」を探して』(皆川豪志)は以下のように書いています。
実現しなかったのは、一帯がヒマラヤを越える渡り鳥「オグロヅル」の飛来地だからだ。渓谷に電線を引けば、そのコースを妨げることになり、ひっかかって命を落とす危険もある。(中略)
自給自足に近い生活を送るこの村の人々。電気がないのだから、テレビも炊飯器も冷蔵庫もない。日が昇れば田畑で働き、暗くなれば寝るという素朴な生活を、もう何世代も繰り返し続けてきた。
その一人、ハーンさん(31)は子供3人と妹、夫の6人家族。下の子はよちよち歩きを始めたばかりで農作業や牛の乳搾りの合間も目が離せない。休む時間はほとんどなく、残った家事やチーズ作りの仕事は夜が更けてからロウソクの明かりの下でするしかないという。
「やはり電気が欲しいですか? それともツルのほうが大事ですか?」
少々、意地悪な質問に、ハーンさんは、恥ずかしそうな笑顔でこう答えた。「電気はあればいいけど、なくてもいい。でもツルはそういうものじゃない。くると幸せな気分になれるから。子供のころからずっと見てきた烏だから」。この旅で、最も心に残る言葉だった。

下は多摩動物公園のオグロヅル。




「電気よりもツルの方が大切」という声はハーンさんだけではなく村の総意であったため、電気を引くという構想が頓挫したわけです。
私たちなら間違いなくツルよりも電気を選ぶでしょう。それとは逆の価値観があるということを知っておくべきですね。
この話は10年以上前のことですが、その後「太陽光発電が設置された」とか「政府がツルのために、お金を掛けて電線を地下に敷設した」という情報が伝わってきているそうです。

コメント (4)
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