ねずみ(演:柳家さん喬 落語)

2024-06-11 00:00:39 | 落語
名工、左甚五郎を主役にしたいくつかの落語の一つ。

甚五郎が仙台に旅に出る。すでに名声を得て老境に近く、漫遊のつもりだった。そして仙台の入口の辺りで宿を探すのだが、旅姿の元に近付いてきた少年が、うちの宿に泊ってほしいと袖を引く。事情は不明だが快諾すると、「鼠屋」という小さな宿だった。向かいには大きな「虎屋」という旅館がある(虎屋と聞いて和菓子屋と思い込むと、後の話が頭に入らないので注意)。

聞けば旅館の女将が亡くなった後、後妻に入った妻と番頭が向かいの虎屋に転職してしまい、お客を持っていかれ、経営が苦しいということ。

同情した甚五郎は、旅立つ前に木片を削り、屋号にふさわしくネズミの木彫を彫り上げ、店頭に掲げてやった。さすがに本邦最高峰の腕前、ネズミは動く様に見えるわけで、それを拝観するために多くの宿泊客が訪れるようになった。

となると、さびれた虎屋は対抗策として仙台一の彫刻家に虎を彫るように依頼。ところが頼まれた方は、あまり乗り気ではなかったが、「左甚五郎」の名前を聞くと、ムラムラと対抗心が沸き上がる。かつて江戸で彫刻対決に敗れて仙台に流れてきた過去があったのだ。

ところが名人といえども無心にならないと名作はできない。そう大したできにはならなかったが、虎の彫物を掲げると、鼠屋のネズミはすくんだように動かなくなる。動かないネズミではしかたがなく、またも客の大移動となる。

困った鼠屋の主人から急を知らされた甚五郎が戻ってくると、虎屋の造作はまったく杜撰と見て取った。そしてネズミに動かなくなった理由を聞くと、虎屋に猫がいるというわけだ。「あれは猫ではなく虎だ」「それなら安心!」ということでオチる。


もし左甚五郎が悪徳職人であったなら、次は虎屋に「猫の木像」を製作販売し、さらに鼠屋には「犬」さらに虎屋には「狼」、さらに「熊」「鉄砲撃ち」「大砲撃ち」・・・

動物を彫るという題材は、やはり日光の三猿の影響なのだろう。なぜ見ざる聞かざる言わざるのような寓意的な木彫を彫ったのか、謎というしかない。

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