燃えつきた地図(安部公房著)

2012-08-15 00:00:40 | 書評
まず、この本を読むに至ったのには、いくつかの間接的な理由がある。

一つは、数ヶ月前にスウェーデン・アカデミーのノーベル委員会のベストベリー委員長が読売新聞社の取材に対して、「安部公房は急死しなければ、ノーベル文学賞を受けていたでしょう。非常に、非常に近かった」と発言したこと。彼の小説は多くは読んでいるが、読んでいないものもある。そのうち一冊が、これ。

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次の理由は、たまたまこの590円の文庫本が、有名書店のあるコーナーに平積みされていたこと。あるコーナーとは、「旅行」である。確かに題名に「地図」と入っているが、大型書店の店員が、安部公房が旅行ガイドブックを書くとは思っていないだろう。

そして、実際、「燃えつきた地図」を持って旅に出たわけじゃないのだが、新幹線の中で大部分を読む。

内容的には、ガイドブックというよりも探偵小説に近い。失踪人の捜査を依頼された探偵が、乏しい情報を元に社会の深淵を次々に暴いていくわけだ。

そして、いつしか探偵自身も失踪人の名前の中に含まれていくのだが、奇妙なことに、重要な役目を持った登場人物が何人も登頂しては意味不明のように消えていく。

全体的なトーンは「1Q84」とよく似ている。社会の不条理の裂け目を追及していくわけだ。ただし、こちらは短い。文庫本1冊である。

ところで、安部公房が急死したのは1993年である。それによって惜しくもノーベル賞をとれなかったということは・・

1994年に文学賞を受賞したのは大江健三郎。あきらかな替え玉ということになる。


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