革命前夜(須賀しのぶ著 小説)

2019-08-07 00:00:00 | 書評
須賀しのぶの作品は「夏の祈りは」という高校野球をテーマとした汗と涙の小説を読み、もう少し読んでみようと思ったわけだ。それで、「革命前夜」を読み始めた。実は、何の革命なのかよくわかっていなかった。

主人公の眞山柊史はドレスデン(東ドイツ)の音楽大学でピアノを学ぶ音楽留学生。共産圏の国なので、同級生はハンガリーや北朝鮮、ベトナムといった国の学生が多い。音の溢れる都市であるドレスデンは第二次大戦時に空爆で破壊され、復興もそれほどすすんでいないなかで、政府は民衆の統治のために市民のスパイを続けている。

一方、ペレストロイカの波は、ひたひたとロシアから周辺の衛星国に広がってきていた。



そういう矛盾だらけの国が崩壊していく直前というのは、往々にして悲惨なことが起きる。友人やその家族が連行されてしまったり、眞山にもスパイが張り付くことになる。

そして町では、連日のように抗議デモが起こり、ついに隣国のハンガリーは西側の国との国境を開放してしまう。

小説は、ベルリンの壁が崩壊した時点で終わる。

著者はライトノベルの世界から普通の小説家になったのだが、高校野球だけでもなく、こんなにシリアスな小説を書けるのかと、ただ関心するのみだ。


ところで、小説の中に東ドイツの選挙制度の記述がある。一応、民主主義であることを偽装するための選挙が行われるのだが、その方法が現在の北朝鮮と同じようである。有権者は投票所に行くと、テーブルが二つあって、一つは政府推薦候補に投票するテーブルで、そこにいって投票用紙をもらう。もう一つは、政府推薦候補に投票しないテーブルで、住所氏名を記帳してから反対投票用紙をもらって投票するそうだ。そして、めったにいないが第二のテーブルに行ったものは、そのうち勤務先を失い、家族がバラバラになって、どこかへ行ってしまうということだった。

しかし、壁の崩壊の前に行われた選挙では、10%ほどの人が第二テーブルに向かったそうだが、政府の発表では反対票は1%ということで、それも暴動の原因になったようだ。

つまり、北朝鮮で同じようにそういうことが10%程度起これば、おわりの始まりということなのだろうが、困ったことに隣接する国の中で、「こういう国の国民」になりたいという願望がわくのだろうかと、少し懐疑的になる。

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