妖精が舞い下りる夜(小川洋子著 エッセイ)

2024-04-15 00:00:00 | 書評
小説家の小川洋子氏のエッセイ。

相性の良い文体というのがあり、その一人が小川洋子氏の小説。いかにも小説という凝ったシチュエーションの設定でも抵抗なく読める。しかも単語の選択で余計な先入観を持たせないように使用されるので、小説を読みながら、ストーリーの展開の先読みをするのが難しい。つまり、次の展開を期待してしまうわけだ。

エッセイを読むと、好きな作家として金井美恵子氏の「愛の生活」と書かれていて、少し驚く。まったくの寡作家で、生涯、10冊以上の小説を書かないようにしているかのように感じてしまう。私も金井氏の初期三部作「愛の生活」「夢の時間」「兎」は愛読書だ。なぜか本を読むと、立ち上がって遠くに行きたくなるように心がザワツク。

小川氏の愛読作家として、ブローティガンとか村上春樹とか山田詠美とか川端康成とか。それ、自分と同じわけだ。

それと本書を読んでいるときに、わかってきたのは本書の書かれた1997年当時、倉敷市の玉島乙島という地区に住まれていたということ。かなり近くの会社にいたことがあるので知っていたのだが、乙島というのは、平安時代には島だった。そのあたり一帯を水島と呼んでいたのだが、そこが源平の戦の激戦地になった。

実は、源平の戦いは、ほとんどが源氏側の勝利だったのだが、ほぼ唯一の例外が「水島の戦」。源氏側は頼朝軍ではなく、木曽義仲軍で、屋島にいた平家の勢力を討とうとしたのだが、平家軍に敗れる。一説では、当日は皆既日食の日で、あらかじめそれを知っていた平家により、日食を知らなかった源氏軍が世界が暗くなったことに驚いて逃げ出したとも言われる。

よく言われるのがノーベル文学賞候補。たぶん違う。ノーベル賞の目指す方向性とは異なっていると思う。それでいいのだが。