ことり(小川洋子著)

2023-05-02 00:00:26 | 書評
小川洋子はもはや世界級の作家になっていて、ノーベル賞候補とも言われるが、おそらくそうはならないだろう。社会に対して、何かを訴えたり怒りをぶつけるような小説は書かない。

ただし、注意深く読むと、登場人物には、いわゆる「変人」が多い。10分しか記憶が残らない博士とか本作に登場する人間のコトバではなく小鳥(おそらくメジロ)とのみ言葉が通じる男とか。多くの場合は善人だ(違う場合もあるが)。少数の善人に対する愛が深いとしてSDGs作家ということになるだろうか。いや、違う。上に書いた二人の変人は世界に二人といないだろうから、人類愛とはまったく違う目的で作家が創造したのだろう。



それと、「ことり」という題名だが、なぜ「小鳥」ではないのだろう。他の意味があるのだろうか、うすうす感じていたのだが、そういうことになる。

さらに不思議なのは、小説の前半分は、そのメジロ語の男の幼児時代からのできごとが書かれる。彼の言葉がわかるのは、メジロと彼の弟だけなのだ。そして、彼の父も母も亡くなり、さらに彼自身も亡くなってしまう。読者は困ってしまう。電子書籍なら小説全体の長さがよくわからないので、とりあえず感じないが書籍だと全体ページ数の半分で主人公と思っていた人物がいなくなる。

こうして、真の主人公は、彼の弟であったわけだ。

そして兄の意志を継いで幼稚園の鳥小屋の清掃を長い間、続けるのだが、そういう静かな生活はついに終わりになる。


小説家にも色々なタイプがいて、リアリティを保つために実在の事件や住所や建物などをそのまま使ったりモデルにしたりする手法もあるが、本書作者(小川洋子)は、筋書きも空間も架空世界を作る。現代の「小説の神様」といっていいだろう。