木暮荘物語(三浦しをん著 小説)

2020-09-21 00:00:23 | 書評
三浦しをん氏の小説をずいぶん読んでいる。読みやすいわけだ。といって、展開がわかっている間抜けなミステリー的ということではなく、読者の予想の範囲の上限のようなストーリーの意外性はある。何を読もうか悩んだ時には、彼女か吉村昭を読むことにしている。(吉村昭氏の方は、大量の著作があるので、読み切れるわけはない)



本作は、世田谷の代田にあるボロアパート木暮荘の住人たち(一部はストーカー関係者)がそれぞれ主人公になる。短編が七編。少し前に読んだ吉田修一「パレード」は、5人の共同生活者が一つずつの短編の語り部になるのだが、本作の登場人物は、別の部屋に住んでいて、それぞれに関係はあるが、いわゆる濃厚接触者ではない。

せいぜい、壁や天井の穴から私生活をのぞき見したり、のぞき見させたりという程度だ。

あえていうと、大家さんの飼い犬ジョンのための短編も書いてもらえたらよかったのにと思う。のぞき見し合っているような住人の倒錯性を犬の目で見るとどうなのか。

登場人物はどこか人間的に弱さが目立つように書かれているのだが、究極的に不幸になる人はいない。もっとも可哀想なのは、5年に一度しかトリミングしてもらえないジョンのような気がする。