津軽海峡の秘密

2020-09-09 00:00:07 | 市民A
モーリシャス海岸バルカー船座礁事故のことを少しdeepに調べている間に、今回の事故とはまったく関係のない二つの事実に気が付いたので、本日は、その一つの話。題して『津軽海峡の秘密』。

何の話かと言うと、領海と領海内の航行の自由の問題。

まず、領海のルール。簡単に言うと陸地から12海里。1994年に国連の海洋法条約で定められた。その外に接続水域が12海里あり、排他的経済水域が200海里ある。領海は基本的に領土と同じで国内法が適用になる。接続水域は、具体的規定がなく曖昧で、諸説あるが、重大な逃亡犯とかの逮捕権はあると言われるが、ないという説もある。そして排他的経済水域は漁業とか地下資源とか潮流や風力による発電とかの権利があるということ。

*1海里とはどれだけの距離かというと、1.852kmである。これは赤道上の1分の距離なのだが、ミニ解説すると、地球の円周はほぼ、40,000kmである。なぜキリがいいかというと、北極と赤道の距離を10,000kmとして1千万分の1を1mとしたからだ。地球は奇妙にもほとんど球体なので北極と南極の距離の4倍が(球の円周)赤道の長さとなる。
そして、東経+西経の合計は360度と決められていて、さらに1度=60分、1分=60秒と時計のような決め方になっていて、この1分の距離が1海里(sea mile)である。40000÷360÷60≒1.852。座礁したWAKASHIOは11ノットの速さで航行していたが1ノットは1時間に1海里の速さなので、11ノットは時速20km(11×1.852)だったことになる。

それでは津軽海峡の話。20年ほど前に函館の立待岬に行ったことがある。外国人観光客に推薦したいほどの絶景スポットで、眼下には津軽海峡、その先には下北半島が視界に入る。江戸時代末期には外国船を打ち払おうと岬に大砲が据えられたそうだ。青森側から津軽海峡を見に行くのは大変に困難なので、普通に見に行くなら函館側に限る。


そして、しばらく海峡を眺めていると、かなりの巨大貨物船が津軽海峡を通過していく。20万トンクラスだったはず。日本には日本海側に、それだけの船が着桟する港はないので、中国大陸北側(たとえば大連)から北米に向かう船が通過するのだろうと感じたのだが、国際海峡になっているのかな?と思っていた。しかし、海峡の幅は北海道側と本州側からそれぞれ12海里の線を引けば隙間がなくなる(=領海)わけなので、なんとなくもやもやしていた。海峡の中央部は12海里以上離れているが、海峡の西側と東側の入り口は19km程度なので、事実上の領海化は可能。

一方、領海内であっても商船(非軍艦)が第三国から第三国へ向かう途中に領海内を通過することは、一般的に認められていて『無害通航』と言われる。あくまでも沿岸国に無害でなければならず、ゴミや油を流したり、密輸船に積み替えたりしてはならない。本によっては「無害通航権」と書かれる場合もあるが、それは間違いで、権利ではなく慣習。「無害なら、通過を認めよう」といったものだ。では、津軽海峡は領海扱いで無害通航を認めているのか、あるいは国際海峡として「通過通航権」を認めているのだろうか。国際海峡の場合、戦闘準備を完了した軍艦でも無条件に通航させることになっている。(もっとも津軽海峡を通過して武装した軍艦がハワイ襲撃しようと思うかどうかは疑問だが)


国交省のHPで確認すると、領海でもなく国際海峡でもなく「特定海域」なる用語が使われている。日本の5か所(津軽海峡、宗谷海峡、対馬東水道、対馬西水道、大隅海峡)について特定海域を設定していて、津軽海峡では領海を両岸から3海里とし中央部を「特定海域」にしている。「特定海域」という曖昧な単語は何を意味するのか、よくわからないが、「例外」ということなのだろう。外国船は、この特定海域を通航しているが、時々はみ出す。

通過通航権を認めた国際海峡では軍艦が通過通航権を行使して通過することになるので、それは認めないとしても、領海にして、軍艦を通さなければいいではないかと言いたいところなのだが、領海にできない理由は思いもつかないことらしい。つまり、非核三原則。

米軍に配慮しているわけだ。津軽海峡全域を日本の領海とすれば、有事に核兵器を搭載した米軍の艦船の通過ができなくなる。だから、あいまいにしないと矛盾が生じる。


もっとも、全国地図で鳥瞰すると、津軽海峡が通れないと、中国北部の港は大変不便になる。北の宗谷海峡を通ってもオホーツク海で、まだ北太平洋には出られない。ロシアが実効支配している国後島と択捉島の間にある国後水道を抜けなければならない。中国南部の方は鹿児島の南の大隅海峡を通ることになる。尖閣諸島の近くも通過しにくい。まったくじゃまな国だ、と思っているのだろう。