月魚(三浦しをん著 小説)

2018-12-12 00:00:29 | 書評
三浦しをんは、お気に入りの作家である。というのも、登場人物の性格が複雑なのだ。

たぶん、私が単純すぎるのかもしれないが、たとえば、一般的に嬉しいこととされる資格試験の合格とか、私なら、合格したら、「嬉しい!神社にお礼参りにいかねば」という、まったく俗っぽい対処を考えるのだが、彼女の小説の中の出来事の場合、「うれしい」と思ったところが人生の山であり、注意しなければならない。その後やってくる不運の連続を思えば、嬉しいことがあった時こそ、ジェットコースターの頂点で、最も「悲しい」時として書くのではないだろうか。ストーリーを追うこと以上の緊張感が漂う作家と思っている。

tsukiuo


本小説は二人の若い古書業界人の男を中心に回っていく。古書店主の真志喜と古書卸売業の瀬名垣。古書業界では過去に起こった有名な事件により真志喜の祖父と瀬名垣の父親がゆがんだ関係になり、瀬名垣の父親は息子を置いたまま、失踪してしまっていた。

人間関係がぐちゃぐちゃになった人たちが、地方の愛書家の死後、その若い妻と一族との間の蔵書処分問題(売却か図書館寄贈か)の争いに巻き込まれていく中で一つの結論に向かって進みだす。

では、本作のとりあえずの完結後、何が変わったのだろう。主に、瀬名垣に心境の変化はあるのだが、卸売業から古書店開業という流れになる。父親とのわだかまりは続くものの、行方不明だった父親と再会はしたものの・・

冒頭に書いたように、それほど深く心理を探究する能力はないので、彼らの親子関係が、この先、円満方向に進むのか、次の大爆発につながるのか、予測する能力はない。