葬儀の日(松浦理英子著 小説)

2018-12-03 00:00:18 | 書評
文庫本で230ページで、中編小説が三編。幻の初期作品集だそうだ。後年の彼女の輪郭が色濃く感じられる。

sogihi


表題作の『葬儀の日』。泣き屋や笑い屋や、それを非難する人とか。いつ、どこで、誰がというような事情が希薄な作品で、読者には酷な部分が多いが、本質的に、作者が「こういうような構造の小説を書きたい」という強い欲望を完遂したといえる。

『渇く夏』。夢と現実とあいまいな境目をさまよう20歳の女性。読むほうも現実なのか夢なのか、あるいはもっと大きな仮想の中にすべてあるのか。最後に変な老人が再登場して現実感をとりもどすのだが、そこは要らないのかもしれない。

『肥満体恐怖症』。普通の小説を読み慣れた人には、この小説が理解の限界かもしれない。前二編は普通の小説の枠を超えている。カフカの「城」だって読めない人はこの『肥満・・』が限界だろう。ある意味、現実的だ。女学生が、同居する肥満女学生たちに恐怖を感じ、ちょっとした嫌がらせで盗みを始める。盗っ人の一般理論である習慣化が始まり、盗品が積み重なっていく。ところが、盗まれている中の一人は真実を知っている。そして、・・・。ということで、ある意味通俗的かもしれない。

この本だけを読んで、松浦作品を避けるのはもったいないが、逆にこの本を読まずして松浦作品を語るのは避けたいところだ。