メタボから最高峰、そして危機が

2009-02-27 00:00:12 | スポーツ
スキーヤーで冒険家である三浦雄一郎氏の講演を数週間前に某証券会社の主催で聴いたのが、ジャストタイミングで、骨盤骨折の報を知る。

三浦雄一郎さん 不覚!
スキー場で転倒し骨折 全治3カ月(2月26日2時36分 毎日新聞)

国内最高齢の75歳でエベレスト登頂に成功したプロスキーヤーの三浦雄一郎さん(76)が、2月19日に札幌市内のスキー場で転倒して骨盤を骨折していたことが分かった。全治3カ月と診断されたが、既にリハビリを始めているという。

長女の恵美里さんによると、三浦さんは19日午前、スキー中にこぶに乗り上げてコース外に飛び出し、路面で腰を強打した。三浦さんは市内の病院に運ばれ、現在も入院している。

回復の意味を込めて、講演会のことを思い出しながら書いてみる。

miura1三浦氏は昨年(2008年)、75歳で二度目のエベレスト登頂に成功。エベレスト制覇の最高齢者記録を更新する。5年前の70歳の時にも登頂成功しているので、高齢者記録連発である。講演は、この二回の登頂に関する話題を中心に進められる。

まず、学生時代。スキーで日本一になってオリンピックに出場しようと思っていたそうだ。そして挫折。そこで、今度は世界一のスキーヤーになろうと考えたそうだ。そして、ついに1964年31歳でスキー世界最高速記録を樹立する。時速172キロ。

このあたりから、彼の考え方が硬質製であることがわかる。普通なら、学生スキーヤーの行く先は、ショップの店員ということになる。良くてもスポーツ用品メーカーのサービススタッフ。

さらに、パラシュートブレーキを使って富士山直滑降(1966年)。エベレスト8000m地点で滑降(1970年)。南極で滑降(1977年)。そして、今度は再び南米で、七大陸最高峰滑降を完成させる(1985年)。コジアスコ(豪大陸)、マッキンレー(北米)、エベレスト(アジア)、キリマンジェロ(アフリカ)、ビンソン・マッシフ(南極)、エルブルース(欧州)、アコンカグア(南米)

そして、栄光の時間は短く、その余禄の人生が始まる。人生は楽しい。飲み放題、食べ放題で運動不足。彼の身体は確実にメタボ的崩壊に向かっていた。一方、彼の父親は90代でも滑っているし、次男は父の果たさなかった五輪代表(モーグル)に近づいていた。

そして、転機は奥様の病気。入院中の奥様に付き添っているところを、病院の医師に捕まり、人間ドックへ。

既に60才を超えていた三浦氏は、身長164cmで86kg。高血圧、高血栓、高脂肪・・糖尿病寸前で、不整脈付き。検診結果表が真っ赤だったそうだ。

ここで、再び、彼の硬質精神が登場する。目標を高くである。

「体を治して、エベレストに登頂しよう」。

そして、当時住んでいた札幌近郊の数百メートル山に登ったところ、「もうダメ、死にそう」ということになる。

そのため、5年計画で体力回復に挑戦することになる。ただし、二つのことを決めていたそうだ。

1.きつ過ぎないこと。
  つまり目標のエベレストは、あまりにも難しかったからだそうだ。遭難率15%、登頂成功率30%。体力があってもこれである。できないことは、しょせんはできないということはわかっていたのだろう。

2.飲み放題、食べ放題をやめないこと。
  おそらく、食べずにやせるのではエベレストは無理ということだろう。

そのため、三浦氏は、自分の生活の中にトレーニングを組み込むことになる。両足首に1キロのウェートをつけ、背中に10キロの重りをつけ、毎日30分以上歩くことにしたそうだ。そして、登山靴で散歩することにする。そして、足のウェートは徐々に重くなり、現在は6キロだそうだ。そして、ついにエベレストを目指すことになる。

講演では、エベレストの登り方については、結構、面白い方法が紹介されたのだが、ここに書いても有害無益なので省略(行きたい人は自分で調べること)。

ただし、70歳の初登頂の時に、ことを急いだことにより、後遺症が発症。こどもの頃からわずらっている心臓疾患が悪化。不整脈で倒れることになる。普通の人間なら、ここでペースダウンする。もう70歳を超えているのだから。

そして再び、目標が設定される。75歳でエベレストに最登頂すること。

miura170歳の時には、頂上が曇っていて、何も見えずに達成感がなかったそうだ。

その後、激しい不整脈に見舞われ、張り裂けそうな状態の心臓を2回手術をすることになる。ここがミソだ。

人づてに、自分の心臓手術に適した名医を茨城県に探し出す。これが、アメリカのジョンズ・ホプキンス大学付属病院に専用ジェット機で乗り付けて、とれたての新鮮な心臓と交換してから、いざエベレストというのでは、日本人は納得しないだろう。


そして75才となる。

エベレストは、再び彼を頂上に迎えることになる。天気快晴である。

さらに、再び80歳での登頂を狙っているそうだ。何しろ、75歳の登頂のときは、直前に中国隊がオリンピックの景気付けに登頂し、帰り際に、すれ違ったそうだ。中国隊はチベットルートで下山。今度は、そのルートで登りたいそうだ。

実は、地球温暖化で、いつものコース(ネパール側)には多くのクレパスが生じているそうだ。穴に落ちて亡くなるのはスキーヤーとして耐えられないのかもしれない。



そして、今回の骨盤骨折。思うに、筋肉は鍛えられても、骨を鍛えることは難しいのだろうか。スキーと登山は若干、バランスが違うのだろう。何か、エベレストとは別の目標を設定しそうな気がする。



ところで、不摂生の末、体力ボロボロとなり再起をはかる話題としては、中川昭一衆議院議員のことが思い浮かぶ。彼の政治的復活にも、大きな目標が必要だろうか。

『財務大臣復帰』ではないだろう。『総理大臣の椅子』だろうか。ただし、エベレストは、登頂すること自体が目標となりうるが、総理の椅子の方は、座ることが目標であってはならないのだが、勘違いする歴代首相がなんと多かったことだろう