10月18日夜、日本でもっともフランスな場所

2004-10-20 15:25:46 | 音楽(クラシック音楽他)
605ade17.jpg45才のピアニスト、ロジェ・ムラロがフランスから来日。錦糸町の”すみだトリフォニーホール”で独奏会を開く。それもラヴェルである。さらにラヴェルのピアノ独奏曲を一曲残らず、すべてである。CDの全集のようなものだ。

ラヴェルはまったく前衛的な”水の戯れ”や”夜のガスパール”のような作品もあるし、古典形式を踏まえた”クープランの墓”のような作品もあり、その中間のせめぎあいの中で美しい心象的な情景を描いている。光と海と夜のさざなみが基調となる。しかし、ラヴェルの音楽を古典からの系統としてみることは難しい。ドビュシーより、まさにフランスの自由と風を感じるだけだ。そしてラヴェルを解釈できるピアニストもフランスの情景の中からあらわれるしかないのかもしれない。

今が盛りののムラロであるが、ジダンが登場したかのような長身である。そして何かところどころにラヴェルらしからぬ”つっかかり感”を挑戦的にならないように自然に入れていく。私には、ステージのかたわらの影の中によみがえるラヴェルの魂に対して、ムラロが解釈と問合わせをしながら演奏しているように感じていた。彼自身、中空に視線を何度も走らせるのである。

感じたことだが、若い頃は、パワフルなムラロのこと、もっとおさえこむように強引に弾いたのだろうが、今はラヴェルで楽しんでいるのだろう。しかし、聴く方からすれば、これが老境に近づいていくと、もっとラヴェルと調和していまい、「安心できる反面、面白くない」方向になるような気がする。生演奏を聴くなら、今のムラロの不安定さが醍醐味だ。音楽に結論はないと言い添えておこう。
ホールには若干の空席も残り残念だが、ラヴェルを聴き、休憩時間にシャンパンを味わうようなタイプはむしろ美術館の方に行くのかもしれない。最近の美術展と同様に、ものすごく聴衆は若い。そして女性が多く、華やかだ。

今年は、オペラシティでもラヴェルを聴いたし、ラヴェル全集も聴いてみたし、こだわったつもりである。ホールとしてはトリフォニーよりオペラシティの明るさの方がラヴェルっぽいと思うが、大した差ではないだろう。バルトーク、シベリウス、ラヴェルというように結構エッジ的なところにきているのだが、来年に向け、また新たに考えてみようかと・・・

ところで、ホールの中はすっかりフランス気分だが、外に出れば、そこは「錦糸町」である。なるべく街の景色を見ないように、足早に地下鉄のホームへ向かったのである。