![新編 風の又三郎 (新潮文庫)](http://ecx.images-amazon.com/images/I/51qE95RYRTL.jpg)
宮沢賢治『新編 風の又三郎』(新潮文庫)読了。
「やまなし」
クラムボンはわらったよ、とか、死んだよ、とか、殺されたよ、とか印象的だが、何かがつかめてひどく心を動かされるというようなものでもない。
「貝の火」
これは初めて読んだけど、すごい。悪いことをしたら貝の火が消えるのかと思って、兎のお父さんもそう断言するが、二度ほどそんなことなく過ぎる。実は、鳥にもらったものだから鳥に対して何か不誠実なことをしない限りは貝の火は消えないということらしい。
狐の、「ホモイ。気をつけろ。その箱に手でもかけて見ろ。食い殺すぞ。泥棒め。」の台詞が怖い。太宰治が書きそうな台詞。
貝の火は割れて、ホモイは失明する。村上春樹の『ねじまき鳥クロニクル』だったと思うけれど、主人公に何かがあって頬に痣かなにかが出来て、物語が終わってもその痣は消えない。そんな感じを思い出す。
「蜘蛛となめくじと狸」
食べられてしまう側の台詞がけっこう怖くておもしろい。なんだかんだ言われながら食べられてしまう。
なめくじに殺されるかたつむりの「もう死にます。さよなら。」が哀しい。
三つの話が、前の話を承けるようにして始まり、タランティーノの映画のような感じ。
「ツェねずみ」
自分の被害を大袈裟に言う人。
「クンねずみ」(ンは小さいン)
人に嫉妬すると咳をする人。
「雁の童子」
これまで読んだものとちょっと毛色が違って新鮮。
人間が語り手というのがまず新鮮。そのひとが旅先で人に出会い、話を聞く。その話もまた、切なくて素晴らしい。
「フランドン農学校の豚」
豚をする前に、豚本人に契約書を書いてもらわなければならないという法律があって、契約するのを豚が怖がって嫌がるというわりと怖い話だった。契約書にサインしてしまったら無理矢理太らされて殺される。
殺される側を描くものが宮沢賢治には多い。
「グスコーブドリの伝記」
最初に、飢饉でお父さんがいなくなり、お母さんもあとを追っかけていなくなり、妹が怪しい男に連れ去られるあたりがとてもおもしろかった。このような話であることを忘れていた。
科学を研究すればすべて上手くいく、というような考えはいまはあまりしなくなったが、僕が子供のころまでは科学信奉のようなものがあったなと思った。そしてやはり鉄腕アトムと同じように、皆の犠牲になってブドリは死ぬ。
妹とは再会できてよかった。
「風の又三郎」
この本に収録されている作品ではもっとも有名で、本全体のタイトルにもなっているが、あまりよくわからなかった。
転校生が来て、また去っていく。
少年時代の川で遊んだり山に登ったりの思い出を描いたものなのだろうか。
方言がよくわからないのもこの作品のよくわからない原因の一つだろう。一つ全く理解できない台詞があった。注もついていなかった。