花終る闇(開高健著 小説)

2020-09-14 00:00:04 | 書評
輝ける闇(1968年)、夏の闇(1972年)と本作を合わせて『闇三部作』というそうだが、本作が発表されたのは1990年。全二作とは大きく離れた時期のように思えるが、実は本作は突然終わっている。そして末尾には(未完)と記されている。



開高健は1989年に亡くなっている。本作は死後公開されたのだが、いつ未完状態になったのかははっきりしないが、小説の最後半に登場する加奈子という女性は、『夏の闇』では中心人物として書かれた女性で、小説の通りのモデルがいて、開高健の愛人だった。しかし不運にも1970年に世田谷区内の自動車事故で37歳で死去している。

本作の冒頭で、主人公の小説家(開高自身といっていいだろう)は、まったく筆が進まないと言いながら、バンコクの街で愛人と戯れている。怠惰な生活の中にベトナム戦争に従軍した時の記憶がフラッシュバックしていく。別の場所では別の女性が現れ、やはり同じような展開だ。

本作品に書かれている様々な事象だが、その順番が時間軸に沿ったものと考えるべきではないのかもしれない。ベトナム戦争で米軍が南ベトナムを見捨てて引き揚げてしまったのは1973年。「夏の闇」の中では休戦が破綻して、再度戦闘が激しくなって、主人公はいてもたってもいられなくなりベトナムに向かうが、本作もほとんど同じ時期に書かれたのではないかとも思えてしまう。

50年近く経ってから批判するのもなんだが、開高健はベトナムに行って、精神的には孤独な戦争捕虜になってしまったように感じる。戦闘の各局面には戦略ではなく戦術しかなく、それは凄惨なものだったはずだ。比較的寡作だったこともその結果だったのだろうと思う。一応、三部作を読了。

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